ベートーヴェンの家族関係は複雑!?ーー祖父を尊敬したが、両親とは心が通わず
※本稿は『知ってるようで知らない ベートーヴェンおもしろ雑学事典』(共著、ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス、現在絶版)で執筆した項目を、出版社の同意を得て転載するものです。
ベートーヴェンのルーツはどこにあるのでしょうか? ベートーヴェンの祖先は、今日では、15世紀までさかのぼることができます。 彼らは、現在のベルギー北部に住み、農業や手工業を営んでいたとされています。
尊敬の的となった祖父。しかし、両親からの愛情は薄く
一族で最初に音楽家になったのが、ベートーヴェンの祖父ルートヴィヒ(1712-1773)です。祖先同様、ベルギーに生まれた彼は、1733年にバス歌手としてボンの宮廷に着任。1761年からは宮廷楽長になり、亡くなるまで務めました。
この祖父は生涯にわたってベートーヴェンの尊敬の対象でした。 彼はウィーンに出たあと、ボンの親友ヴェーゲラーに手紙を書いて(1801年6月26日付)、祖父の肖像画を送るように頼んでいます。ベートーヴェンは、度々の引越しの際にもこの肖像画を持って歩き、祖父をしのんでいたといいます。
この祖父との関係に比べて、両親との関係は複雑なものでした。宮廷のテノール歌手だった父ヨハン(1739/40-1792)は、ベートーヴェンに厳しく音楽を仕込み、さらに酒癖の悪さから周囲に迷惑を掛けるなど、決して良き父ではありませんでした。しかしベートーヴェンは、酔った父を探して連れ帰るなどして、父に対する優しさを見せていたようです。
この父に対して、特に私たちが昔読んだ子ども向けの伝記などでは、とても優しかった、というイメージで描かれる母マリア・マグダレーナ(1746-1787)ですが、実は少し違っていたようです。ベートーヴェンは、知人への手紙に「彼女は私にとって、よい母でやさしい母でした。」と書いていて、これが上記のイメージにつながったのでしょうが、彼が小さいときの逸話で、母から優しくされたことがわかるものはほとんど見つからないのです。
こうした両親との関係を、精神分析の観点を導入してベートーヴェン伝を書いた研究者メイナード・ソロモンは、「ベートーヴェンは両親に愛情を持っていたが、両親からは愛情を受けられなかったことが彼の不運だった。」と分析しています。またソロモンは、母との不満足な関係が、ベートーヴェンが女性たちと最終的に愛情関係を持てなかった原因だったと推測しています。