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さすがに神童!モーツァルトの小さな体から音楽が湧き出ていた

※本稿は『知ってるようで知らない モーツァルトおもしろ雑学事典』(共著、ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス、現在絶版)で執筆した項目を、出版社の同意を得て転載するものです。


音楽を学ぶことは、いつも楽しい遊び!

「音楽の父」バッハ、「楽聖」ベートーヴェン、「歌曲の王」シューベルト。日本人がクラシック音楽を受け入れる歴史のなかで、 このように大作曲家たちに称号が与えられ、私たちはそこから作曲家のイメージを膨らませる、ということがあります。 モーツァルトの場合に、最も有名な称号は何か、といえば、それは「神童」でしょう。 それでは、どのようなことから、彼は「神童」と呼ばれるようになったのでしょうか?

モーツァルトが幼い頃から作曲に楽器演奏にと、多方面で非凡な能力を発揮したことは、とても印象的です。 姉のナンネルが、モーツァルトの死後にしたためた回想が、その一端を教えてくれます。これは、モーツァルトの伝記『死者小伝』を書くためにモーツァルトの情報を求めたシュリヒテグロルという人物の依頼で、ナンネルが記したものでした。ナンネルの回想には、モーツァルトが、すでに3歳のときに、クラヴィーアで和音を探し当てて弾いてはその響きを楽しんでいたこと、4歳のときには、父レーオポルトにレッスンを受けてメヌエットなどを上手に演奏したこと、 そして早くも5歳で作曲を始めたことが記されています。

こうしたことは、楽譜資料によっても確かめることができますから、回想の信憑性は高いといえるでしょう。レーオポルトが、 ナンネルの教育のためにさまざまな小曲を集めて編纂した『ナンネルの楽譜帳』と呼ばれる手書きの音楽帳があります。この音楽帳は、ナンネルだけではなく、後にモーツァルトの教育にも使われました。 レーオポルトは、モーツァルトが練習曲を習得した日付(ときには時刻も)を几帳面に楽譜帳に書き込み、さらに、モーツァルトが即興的に作ったであろう作品を楽譜に書き起こし、余白に記しているのです。

いたずら書きに見えた楽譜は協奏曲だった

ところで、この時期の音楽教育は、厳しいものではなかったようです。 ナンネルは、このレッスンは遊びがてらに始められ、レーオポルトにとってもモーツァルトにとっても、苦にならなかったので、小曲をたやすく学び取ることができたと述べています。モーツァルトにとって、少なくとも楽器演奏や作曲の初歩については、3歳の頃に和音を探しては喜んでいた、そんな遊びの延長の感覚だったのではないでしょうか?

さらに、幼い頃のモーツァルトをよく知る、もう一人の人物の回想を見てみましょう。 これを書いたのは、ザルツブルク宮廷楽団のトランペット奏者を務め(つまりレオポルトの同僚)、モーツァルト一家と親しく交わったヨハン・アンドレアス・シャハトナーです。 すでに触れたように、シュリヒテグロルの求めに応じて回想を記したナンネルでしたが、モーツァルトの幼い頃に関しては、自分の記憶もあいまいだということで、父の友人であるシャハトナーに質問状を送り、補ってもらおうとしたのです。

こうして書かれたシャハトナーの回想には、幼いモーツァルトに関する興味深いエピソードがいくつも記されています。それは、4歳のモーツァルトが、いたずらのようなインクのしみだらけの楽譜を書いていたものの、それはペンの使い方を知らないだけで、よくよく確かめるとそれがきちんとした協奏曲だったこと、そして、聴覚が敏感なことからモーツァルトは、トランペットが単独で演奏されるのをとてもこわがっていたこと、などです。

ヴァイオリンをまったく習わず、大人にまじって弦楽3重奏を弾いた!

ここでは、そうしたなかから、習わずにヴァイオリンを弾いてしまったというエピソードを詳しくご紹介しましょう。

ある時、ヴェンツェルというヴァイオリン奏者が、3重奏曲を持ってやってきて、ヴェンツェルが第1ヴァイオリンを、シャハトナーが第2ヴァイオリンを、そしてレーオポルトがヴィオラを担当して、その曲を演奏することになりました。すると、ヴァイオリンの初歩も習ったことのないモーツァルトが、第2ヴァイオリンを担当したいと言います。 初めは、相手にしなかったレーオポルトですが、 シャハトナーのとりなしもあって、それを許します。結果、モーツァルトは正確にそのパートを演奏し、レーオポルトは驚きの涙を流したといいます。ちなみに、この後は、自信をつけたモーツァルトが第1ヴァイオリンも弾けると言い張るのですが、今度はかなりの悪戦苦闘を強いられ、それを見た一同が笑い転げる、という結末になっています。モーツァルトの並外れた音楽能力を示すとともに、無邪気な子供らしい一面も垣間見えるほほえましい話です。

作曲家に与えられた称号は、その生涯や創作活動の一面を端的に表現したものです。モーツァルトの場合も、「神童」といっただけでは彼の全体像を言い表したことにはなりません。しかし、これらの逸話が、モーツァルトを「神童」と呼ぶに十分なほど強く人々の心をとらえ、 それがやがてモーツァルトのイメージのひとつとして定着したであろうことは、容易に想像できるのではないでしょうか。

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