【小説】引き寄せ 甲子園〜吹奏楽部による演奏をやめた件〜
「辰巳 監督。 吹奏楽部が甲子園地方大会とかで演奏するのをやめてから、自分たちが 取りくみたい音楽に本腰を入れて演奏する時間を増やすことができました。 本当にありがとうございました」
愛子は改まった様に上目遣いで辰巳を見ると微笑んで 頭を下げた。
昼下がりの野球部室には グラウンドから秋の光が差し込み、鉢植えにしたシダ植物を照らしている。
この野球部ではシダ植物が勝利に導く 神草であると崇められている。
愛子と同じ 吹奏楽部の悠太が シダ植物 愛好家であることから 、たまたま 部室に持ち込んだ ことが始まりとなった。
シダ植物を観た周りからは、なんだかオシャレな形をしているよね と 、どこからどう浸透していったかのか。
いつのまにか 部室内には シダ植物と、だるまであふれかえっていた。
だるま といっても1個 や2個ではない、販売用のだるまが何百もあった。
昔、辰巳は某プロ野球球団からのドラフト指名を蹴り家業を継いでだるま職人になったという経緯がある。
元々 野球が好きではなかったが、根性論で練習をするのがノイローゼになるぐらい嫌になってしまったのだ。
悠太や 愛子 が 吹奏楽部で厳しいハラスメントな指導をされているという相談を受け辰巳が、校長に掛け合うことと相成った。
甲子園の大会で 吹奏楽部による演奏が必要な理由はなんであるかと、吹奏楽部内でやるかやらないかアンケートをとって、 集計結果によっては、やめてしまいなさいと 辰巳の一声で決まったのである。
「いやいや、いいんだよ。今年は 夏の甲子園大会で準決勝まで進むことができてよ。吹奏楽を演奏するアルプススタンドの代わりに、俺のつくっただるまとかさ、学校のこととか シダ植物もそうだけど 、いろいろと メディアに取り上げられたべ。こういうことだもん 。たいしたもんだろ」
そこへ悠太がグラウンドで摘んできたシダ植物を持って 入ってきた。
「バカ この。またシダ植物で部室内があふれかえるじゃんよ」
あぁ。 ただのバカではなく、バカ このって「こ の」がおしりにつくとなんか 暖かい。
「おしゃれなやつだから見てやってください。辰巳さんだって 家業を部室に持ち込んでるじゃないですか」
「うるさいよバカ この」