民主党優勢
コラム『あまのじゃく』1955/3/1 発行
文化新聞 No. 1731
戦争への道に通じるサイン⁈
主幹 吉 田 金 八
28日の早朝開票結果で民主党優勢のラジオを聞いていた長男(高校3年)が『民主党が第一党を取ると再軍備をやるだろう』と聞く。
『勿論、平和憲法でも軍備をやっている位だから、保守合同で憲法改正をやろうとするだろう』
『そうなると俺などは一番先に兵隊に取られるかな』
この長男は不勉強だが、体格は甲の上で、体重18貫、身長五尺八寸で弾除けには絶好である。
『まァ、お前なんか一番先だな。だから、お父さんは戦争反対の党を支持しているんだよ』と言って見たものの、両社の頭数がこの選挙の結果位の生ぬるい進出では戦争阻止も心もとない。
今度の結果から見ても、大衆は自由党はダメで嫌だと見切っても、革新に大転換する気持ちにならないらしい。
思い切り悪く保守の赤線区域を抜け出られないらしく、民主党は口頭弾の魔術の虜になって、大手術をすれば治る病気を、呪いやいかがわしい迷信に頼ろうとしている。
『子供を戦争で殺した親の気持ちはどうなんでしょうね。うちなんかでも2人の男の子を戦争に出すような事になったらどんなだろう』と、女房が長男の言葉で、民主党内閣はすぐにも憲法を改正し、再軍備徴兵制と結びつけて取り越し苦労を始めている。
『大丈夫だよ。保守党が多数の圧力で平和憲法を止めようとする時には、社会党は乱闘国会以上の力をもって妨害して、絶対にそんなものを通しはしないよ』、その時はこの親父も子供を2人死なす代わりに、平和憲法を支持するために10年か15年早いかもしれぬが、死んでも良いとさえ思った。
前回の選挙に平岡代議士が久須美の大江一家に応援を求めたら、大江の死んだ親父は、血のつながる甥のことで一も二もなかったらしいが、倅の健太郎氏は『戦争絶対反対を公約にすることを条件なら、応援してやる』と言い、当時、右社はその点が曖昧だったけれども、平岡忠次郎は大江の全面応援を得るために『よろしい。戦争反対をスローガンにしよう』と固く約束したというエピソードが伝えられた。
民主党は軍備に関しては総選挙の結果を考えて、その点をぼかしているが、この点の性格からいって再軍備の方向に進むことは間違いのない事実で、おそらく国民を散りじり貧乏の底に追い込んで、『こんな不景気なら戦争で一か八かやってみた方が良い』というヤケッぱちな気持ちにして、容易に再軍備に持っていく政略を行うことであろう。
我が子を戦線で殺し、 敵機に家を焼かれて、初めて『戦争は嫌だ。こんなことは繰り返すまい』と泣きべそをかいても始まらないのだ。
戦争をするもしないも、国民の普段の心構え如何にあるので、再軍備によって軍需工場の利益を上げ、死の産業、悪魔の貿易で儲けようとする自由党と、同じ背景の資本家につながる民主党が優勢なことは、戦争への危険が国民の身に迫ったことを意味するものだということを認識しなければならない。
コラム『あまのじゃく』は、埼玉県西武地方の日刊ローカル紙「文化新聞」に掲載された評判の風刺評論です。歯に衣着せぬ論評は大戦後の困窮にあえぐ読者の留飲を下げ、喝采を浴びました。70年後の現代社会にも、少しも色褪せず通用する評論だと信じます。
このエッセイは発行当時の社会情勢を反映したものです。内容・表現において、現在とは相容れない物もありますが、著作者の意思を尊重して原文のまま掲載いたします】