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忙しい新聞社の1日 ①
コラム『あまのじゃく』1954/10/25 発行
文化新聞 No. 1319
まさに、七転八倒の忙しさ⁈
主幹 吉 田 金 八
23日の土曜日は、翌日付が大判になるので、本社は総動員の緊張した状態であった。
最近入社した文選工(活字を原稿通りに選別して拾う作業)の女子4名ほどがまだ本職になりきっていないので、平日の倍以上の量の仕事をやるのは大変である。
社長であり印刷所長であり、取材記者でもある私のやらなければならならぬ事は色々あって、超人的という言葉通り1人5役である。
朝、工員が出揃わぬうちに(仕事が始まると文選の邪魔になるから)新鋳造の活字を各文選工の持ち場のケースに補給しておいて、仕事がやり良い様にしてやる。
小判用の印刷機も、このところ土台がシックリいかず、不明瞭な印刷で、読者からお小言をいただいている。(ワンチク質店の親父など、わざわざ出向いてきて『文化さんもインキをかなじんでも仕方がないではないか』などと親切な助言をしてくださる)
別にインキを節約するわけではないが、機械の具合の悪いときには、ちょっとインキが出すぎると紙がインキ・ローラーに巻きつき安く、その紙を剥がすのに手間取ってしまう。
前夜はそのため、一部には発送が間に合わなかった地区もを出来たほどの失態を演じた。
その機械も直さねばならないのと、大判発行を控えてテンテコ舞いの最中、都下の田無警察署から飯能署を通じて出頭してくれと言ってきた。
『飛んでもない』この日私がいなかったら、新聞は滅茶苦茶になることは目に見えている。『とても出頭出来ない』と断ったが、しかしどんな問題なのか問題によれば、行かなければならない。警察の電話を借りて田無署と話したが、声が遠くて『もしもし』を繰り返すばかりで話はできない。
飯能署まで行って通話すれば何とか判らなくもないのだろうが、とてもそんな暇もない。
ちょうどそこに三多摩本社からの使いが来たから、『田無署から呼び出しだが何か心当たりがあるか』と聞けば、そんなことは全然ないという。
三多摩版の事でないとすれば、記者が田無署から呼出しを受ける覚えはないので、『こちらに用はないから、そちらの用ならこっちへ来てもらいたい』と返答する。
そもそも警察はこんなに勝手に人を呼び出す権利があるのかと、プンプンである。
質屋をしていた当時は、練馬とか田無からお客が来て、品ぶれや捜査に警視庁の刑事が来たことはしばしばだが、それはもう3年も前のことであり、もしその関係なら私が行くより女房が言った方が話はわかる。
警察から連絡した結果は『郵便物について参考人として聞きたいから』という事だった。郵便物と警察はおかしいが、とにかく明日の日曜なら行けると答えた。
三多摩本社が来たのは、毎週土曜日の新聞を(多摩版は日曜日ごとの週刊で現在出している)明日の日曜に出したいというためである。
本紙の日曜号と合同では大判になって、紙代単価も違う上に大判の機械は回転が遅いので、4千部近い表裏を余計に刷る事は3時間以上時間がかかるので、それでなくても大判日には10時半までの駅への持込みが困難なので多摩版は、小判で行こうと決心する。そうなると、多摩版がタブロイド4版、本紙が大番4ページだから、タブロイド8版に相当するので、組版の量は平日の3倍に12版になるわけである。
もちろん活字を拾う量もこれに比例するわけである。
こんなことはどこでも不可能として投げてしまうところだが、本社はどんなことでもあくまで遂行するという社是だから『よしこれで行こう』という事ことになった。
活字の補給を終わった私は、組版主任が出勤する前(組版屋は新聞社では午後から夜にかけてが忙しいので、遅出、遅仕舞いで、10時に出勤、夜8時退勤となっている)10時に主任が出るまでに、多摩版2版を私が組んで引き継ぐ。
校正、誤植訂正、編集は1人でやっているが、これとて平日の3倍の仕事は大変である。
文選も必死で、いつもはお喋りの多いのに、この日は形相を変えて取り組んでいる。
私はお昼からデスクに向かって盛んに鉛筆を飛ばす。訪問客を相手にしながらも鉛筆は休められない。訪問客も大事な取材源で、この人たちから重要なニュースのきっかけが得られるので、決して粗末には扱えない。 (以下次号)
コラム『あまのじゃく』は、埼玉県西武地方の日刊ローカル紙「文化新聞」に掲載された評判の風刺評論です。歯に衣着せぬ論評は大戦後の困窮にあえぐ読者の留飲を下げ、喝采を浴びました。70年後の現代社会にも、少しも色褪せず通用する評論だと信じます。
このエッセイは発行当時の社会情勢を反映したものです。内容・表現において、現在とは相容れない物もありますが、著作者の意思を尊重して原文のまま掲載いたします】