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褒めた子が寝小便

コラム『あまのじゃく』1963/9/20 発行
文化新聞  No. 4572


『重箱の隅』その政治感覚に疑問符

    主幹 吉 田 金 八

 飯能市議会9月定例会の一般質問において、朝倉議員が屎尿処理場、私有地の管理問題で率直な質問をしたことを『言い難きを敢えて言った』としてこの欄で褒めた。
 ところが、この朝倉市議が、この議会の最終日に「市の土木課の職員が民間の建設の設計をして、感謝状並びに金一封を貰ったことの是非」について緊急質問をし、議長がこれを扱うべきか、議場に諮ったところ、3名しか賛成者がなかったとのことで採り上げられなかったらしいが、『あまのじゃく子』とすれば「褒めた子が寝小便たれた」思いである。
 対象となったのは最近、原市場地区中藤の観光開発事業として完成された『ニジマス釣り場のレストハウス』の建設について建設課の職員が市長、議長(当時岩沢氏)の了解のもとに、各地の同種のレストハウスの例、知識に基づいて参考資料意見を提供し、それが同釣場でも大いに役に立ったとして、完成式の席上、公然と感謝表彰されたもので、市職員として与えられた業務を割いて民間事業を応援し、内職的に報酬を得たといった性質のものではないことは、この表彰が多数の市議も招待されての席上で、何等後ろめたい態度で行われなかった事でも想像されることである。
 これを他の例で例えるならば、ある建設雑誌が公会堂、体育館等の設計図等を公募に際し、公務員または事業会社に勤務するその道に携わる職員が応募して、それが一等に当選して賞金10万円を受けたようなものである。
 この場合、むしろ名誉として本人も周囲のものも、賛辞と祝福を送るのが世上通例で、技術者として礼金などを超越した技術上の誇りを満足したい意図で、あの種の催しに参加するのが実情と思う。
 今度のレストハウスの場合、この目的が飯能地方の観光施設として、単なる営利一方の施設とは異なっており、しかも市長、議長の了解・支持のもとにやったというのが実情である。
 こんなことをいちいち取り上げて、役所の綱紀を云々するのは、いささか重箱の隅をほじくるの恨みがないでもない。
 質問する朝倉議員の純情と率直さには好意が持てないでもないが、あまりにも単純で、その政治姿勢が疑われなくもない。 


 コラム『あまのじゃく』は、埼玉県西武地方の日刊ローカル紙「文化新聞」に掲載された評判の風刺評論です。歯に衣着せぬ論評は大戦後の困窮にあえぐ読者の留飲を下げ、喝采を浴びました。70年後の現代社会にも、少しも色褪せず通用する評論だと信じます。
 このエッセイは発行当時の社会情勢を反映したものです。内容・表現において、現在とは相容れない物もありますが、著作者の意思を尊重して原文のまま掲載いたします】

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