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創作脚本『インクレディブル父ちゃん』

Minimum Theater 11/3公演

『インクレディブル父ちゃん』(10~15分)


作:健康

出演:豊島祐貴 健康


ストーリー:僕の父ちゃんが死んだ。最後まで何も言わずに、僕の前から居なくなってしまった。ある日、遺品を片付けていると父ちゃんのパソコンが見つかった。「息子へ」と書かれたフォルダ。まさか、あんなものが残されていたなんて!



ヒロシの部屋。


ヒロシ 55。いや、56だっただろうか。年すら覚えていなかった。最後に口きいたのいつだっけ。話すとき、どんな顔してたっけ。いつまでも続くと思っていたから、顔なんて意識したことなかった。


ヒロシ 父ちゃんが死んだ。最後は呆気なく終わった。葬式の日は、ここ数日の大雨が嘘かのように晴れた。父ちゃんらしい晴れ空だ、と兄弟が口を揃えて言っていた。父ちゃんは、みんなから愛される人だった。


ヒロシ 父ちゃんはとにかく多くの物を残していった。キャンプ用品、釣り道具、漫画、ゲーム、アダルト、変な日記、どこかの国の土産。他の兄弟は忙しいから、俺と母ちゃんの二人で片付けることになった。賑やかな部屋を眺めていると、また父ちゃんが帰ってくるんじゃないかって思った。だから部屋が片付いたとき、本当に父ちゃんはいなくなったんだって、初めて実感が湧いた。俺は、もう父ちゃんには会えないらしい。ずっと同じ家にいたのにな。どうしようもない後悔を収めるように、俺は荷物を整理した。


ヒロシ これで最後か。パソコンって、データ消したりしないといけないんだっけ。父ちゃん、ステッカー多いなあ。てかこれ電源付くのかな。あ、付いた。


パソコンの画面が付く。


ヒロシ 初期化ってどうするんだろう。


ごちゃごちゃしたディスクトップ。


ヒロシ うわー、きたない。これじゃどこに何があるかわかんないだろ。


「ヒロシへ」と書かれたフォルダに気がつく。


ヒロシ ん?ヒロシへ?なんだこれ。え、これは俺に見ろってこと?いやいやいや、そんなわけ。


画面「あなたはヒロシですか? はい/いいえ」


ヒロシ エロサイトの冒頭みたいだな。は、はい。


動画①と書かれた動画を再生。

Zoomの画面録画。

父ちゃんの顔を映した画面と、パソコンの画面を移した映像。


ヒロシ 父ちゃんだ。


父ちゃん ヒロシ。これを見ているということは、父ちゃんはもうこの世にいないのだろう。実はとある組織に追われていてな。最後になる前に、父ちゃんはヒロシにこのビデオを残すことにした。驚いたと思うが、どうか落ち着いて見てほしい。


ヒロシ ・・・!


父ちゃん これは父ちゃんからヒロシに伝えたいことだ。


父ちゃんがパソコンを触ると、Pornhubの画面(音楽あり)が映される。

焦る父ちゃん。


ヒロシ 父ちゃん!?


エロサイトのタブが大量にある。


ヒロシ エロサイト見すぎじゃない??


父ちゃん、焦ってサイトを消す。


父ちゃん ・・・ヒロシ。これを見ているということは、父ちゃんはもうこの世にいないのだろう。


ヒロシ だめだよ。そこからじゃやり直せないよ。


父ちゃん 実はとある組織に追われていてな。


ヒロシ だから、そんなわけあるか。ただの社会人のおっさんが、何言ってんだよ。


父ちゃん 最後になる前に、父ちゃんはヒロシにこのビデオを残すことにした。続きを見るには、動画②に進んでくれ。


ヒロシ 動画②?これを見ればいいのか。


動画②を再生する。

父ちゃん、ちょんまげ小僧の挨拶をする。

動画②が終了する。


ヒロシ ひき肉言ってる場合ちゃうやろ!ひき肉も焼き肉も超えて骨なってるやん。不謹慎やん。え、父ちゃんが最後に残したのってこれ!?大丈夫?動画③見てみるか・・・


動画③を再生する。

Zoomの画面録画。

父ちゃんの顔を映した画面と、パソコンの画面を移した映像。

超ダサいスライドで、「父ちゃんからのメッセージ TOヒロシ」


父ちゃん ヒロシに伝えたいことがある。ヒロシ、ヒロシはもうすぐ家を出るな。家を出るってことはな、自立するってことだ。


ヒロシ スライドダサくない?それで大事なことを言おうとしてる?ダサいと父親の威厳なくなっちゃうよ。ミスってるよ。


父ちゃん 自立するってことはな、一人で料理をして、一人で掃除をして、一人でゴミも捨てなくちゃいけない。


ヒロシ わ、わかってるよ。


父ちゃん 一人でトイレにも行かなくちゃいけない。


ヒロシ できるわ。


父ちゃん うそつけ。


ヒロシ 何歳だと思ってるんだよ。


父ちゃん まだ子どもだからな。


ヒロシ もう20だよ。


父ちゃん 冗談だろ?


ヒロシ もう、20なんだよ。・・・なんで会話してんだ!?冗談だろ?え、これ天国とつながってるの?天国との生通信ってこと!?父ちゃん、これどうなってんだよ。聞こえてるのかよ。どうやってこのパソコンと


父ちゃん (ヒロシの台詞の途中に)和田アキ子か!


ヒロシ なんだ録画か。じゃないと和田アキ子の話はしないもんな。


父ちゃん ヒロシ。俺はお前に伝えたいことがある。


パワーポイントのスライドを使いながら伝える。


父ちゃん まず、夜は寝た方がいい。風呂は温かい方がいい。朝は起きた方がいい。


ヒロシ そうだな。うん。そうだけど。なんか弱くない?


父ちゃん ハッピーターンの粉は、美味い。


ヒロシ 父ちゃーん!最後に伝えたかったこと、それかよ!!


ノックする音。


父ちゃん お、母ちゃん、今撮影してんだよ。ヒロシのためにビデオ撮ってんだよ。ヒロシが小さい頃、俺の撮った動画で笑ってたことあったろ。俺の顔みて笑ってたの思い出してな。あいつがいつかこの家出ても、いつだって笑えるようにするんだよ。なあ、ヒロシ。父ちゃん知ってるぞ。ヒロシは無口で顔も固いが、思いやりがある優しい人だ。父ちゃんはヒロシの父ちゃんだからな、何でも知ってるんだ。ほら、ヒロシの世話のおかげで、あの花も綺麗に咲いてる。はは、今日もいい天気だなあ。


ヒロシ 父ちゃんは、そうやって、誰にでも優しい人だった。父ちゃんが死んだのだって、道路に飛び出した子どもを守ったからだろ。このビデオも、家出るか悩んでた俺に、いつか見せようと撮ったんだよな。こんな俺にだって優しくしてくれたのが、父ちゃんだったんだよ。すごいなぁ、父ちゃん。俺も、父ちゃんみたいになれるのかな。


父ちゃん ヒロシ!


ヒロシ 父ちゃん!


父ちゃん ヒロシ!


ヒロシ 父ちゃん!!


人A ヒロシ


ヒロシ え


人B ヒロシ


いろんな人(5~10人くらい)が「ヒロシ」と呼びかける映像が流れる。


ヒロシ だれ!?え、だれ!!?知らない人すぎるだろ!


父ちゃん (Goodポーズ)


ヒロシ はは、はははは。なにしてんだよ、もう!


父ちゃん じゃあこの続きは、


ヒロシ あ、続くんだ。


父ちゃん このフロッピーディスクで。


ヒロシ 見れるか!!・・・(手元にデバイスを見つける)何であるんだよ!



幕。


インクレディブル父ちゃん

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