『逆じゃねぇ?』その3【上】
お口直しが意外にも好評につき(嘘つき!)、糞厚い天気にふさわしい爽やかな、とっておきの秘蔵ネタを蔵出し。
あれは大学三年の夏。なんかの打ち上げコンパ?二次会?三次会で終電間際の高田馬場駅。
皆さんもご経験があると拝察するが、若い頃の飲み会なんつーのは貧乏学生には絶好の栄養補給なんである。
今なら考えられねーが、『食う七割・呑む三割』が標準。
とにかく食ぅった、食ったぁ。
相撲部屋のチャンコ状態である。
どーしたって、『小』より『大』が忙しい。
毎度の終電間際であるが、そこは通い慣れたる高田馬場駅。
迷わずトイレに直行便。
サーッと見渡せば『大』は全て使用中の赤色マーク・・・・と思いきや?
ふっふっふ。紙も仏も居るんである。
一番奥の扉が青色マーク!『やりぃ!』
我が身の幸運に感謝しつつ、校門決壊限度97%に迫った腹を静かに素早くドア前に移動。
数秒後に訪れるであろう甘美なる開放感に我が胸は高まり、目標心拍数間近である。
サッとドアノブに手を伸ばし天国への扉を開けて・・・・のはずが?
開かないんである。マークは青色。確実に空室を示しているにもかかわらず、開かないんである。
試しにドアノブを押してみたが、このドアは『引く』が正しく全く反応無し。
再度ドアノブを引いてみると・・・・開いた!でも数センチだけ。しかも開いたと思ったら直ぐに閉まる。
『なーんだ。ドアが壊れてるだけじゃん!』
そうと解れば話は簡単。
さっきより力を入れて、勢い良くドアノブを引く。
今度は15センチ程開いた。しかしまた直ぐに閉まる 。
『なめとんのかぁ、このドア !』
既に校門は決壊限度を超過し、ロスタイムに突入。
『もー勘弁ならねぇ 。ドアなんぞ壊れたって知らねーかんなぁ!』
乾坤一擲、渾身の力を振り絞り最後の一撃!
火事場の糞力で、ようやく全開、メデタシメデタシ・・・・。
のはずだった。
ふと足元を見ると何か妙な物体が転がっている。それもかなりデカイ。
『な、な、何じゃこりゃぁ?』と、見る間にこの物体は立ち上がった。
『君ぃ、失敬な奴だな。使用中が解らないのか ?はぁー。酔っ払いのWの学生だな?全く近頃の学生ときたら礼儀を知らん。親の顔が見たいもんだ云々・・・・』
で、何事も無かったかの如く悠々とトイレに戻り再びドアを閉めた。
江戸っ子の勝負は『間』が真骨頂である。
相手の啖呵なんぞ悠長に聴いていたら負けなんである。
願わくば諸兄よ、しばしワシの言い訳を聴いて頂きたい。
そもそも使用中とは思っていないんである。
そこに突然オヤジが後転しながら出現、しかもこのオヤジ、典型的なうだつの上がらないハゲ、チビ、銀縁眼鏡のサラリーマン風。
妙に落ち着き払った物言いだが、下半身は剥き出し、ジャガイモほっこり、更に圧倒的悪臭。
これらの状況を整理、理解する間が敗因であった。
不覚にもオッサンの啖呵を許してしまった。
このまま引き下がっては先祖の新門辰五郎親分に顔が立たねー 。
先程のドア開閉の謎も瞬時に分析、解明した。
恐らく壊れているのはドアではなく、鍵だ!
この糞オヤジは和式便座着座体制のまま、後方ドアノブをしっかり片手でキープしていたはずだ。
全てを理解した時、身体中の血が『逆』流した !不思議とノーサイドを迎えたはずの我が大腸も逆流している。
反撃開始である・・・・。
以下、下巻に続く。