イケメン警官と修羅場をともにした話(上)
数年前に一人暮らしをしていた時のこと。
僕はいわゆる賃貸の集合住宅に住んでいた。戸数は20ほど、築浅、ロフトつきの優良物件だった。なにより、近くに大きな公園があり自然豊かで、銭湯や商店街があったりと、住みやすさが決めてだった。
ある日の休日、朝早くに目が覚めたため、ジョギングに行くことにした。たしか、時間は5時台。
僕の部屋は集合住宅の最奥に位置していた。
そのため、構造的にオートロック式の外門を出るまでのあいだ、他の住人の玄関前を通り過ぎなければならない。
外廊下を歩いていると、とある部屋の玄関扉が全開していることに気づいた。
「こんな朝早くに外出する人も珍しいな、扉を開けるタイミングが重なったか••(ちょっと気まずいなぁ)」と思った。
集合住宅に住んでいると、鉢合わせしてしまうという、誰もが体験する光景ではないだろうか。
しかし、なぜか物音がしない、人の気配を一切感じないことに違和感があった。
妙だなと思いつつ、その住人の玄関扉の横を通り過ぎようとしたとき、僕はある事に気づいた。
扉前の床に、直径15センチほどの、赤い水玉のようなものが付着していたのだ。よく見ると、周りには小さな水玉も至る所に付着している。
「ペンキ?血か? いやいや、まさか••」と思った。
よく見るとまだ乾いていないようで、ブクブクと泡立っていて、妙にリアルだった。
その住人の玄関先から内部の様子を伺うが、室内までは見えなかった。その間、早朝もあってかまったくの無音、その部屋からも人の気配がしない。
そして、さらにある事に気づいた。
その血溜まりのようなものは、床だけではなく、玄関扉の内側にも、まるで血飛沫のように付着していたのだ。
まるで、時代劇の殺陣で刀で切られたときに飛び散る血飛沫のようで、筆いっぱいに染み込ませて思いっきり振ったら、つきそうな跡だと思った。
この時点で、みなさんならどう行動するだろうか?
•無視してジョギングにいく?
•声をかけてみる?
•インターホンを鳴らしてみる?
•110番する?
僕は慎重な性格もあって、
「本当に血溜まりなのか?(事実確証はない)早朝だし、他の住人も寝静まった状況なのに、勘違いで騒ぎになってもよくないか?」などど、思案していた。
また、同じ集合住宅の住人なわけで、余計なトラブルは抱えたくないという心理もあったと思う。
そんなとき、さらに決定的な異変に気づいた。
玄関先の靴が乱雑に置かれていたこともあり、すぐに気づけなかったのだが、よく見るとお金、紙幣と硬貨が散乱していたのだ。それも、それなりの金額のように見えた。
血溜まりのようなもの、無施錠、金銭放置、これらはサスペンスドラマでみる事件現場のほかならない。
最初から十分おかしい状況といえばそうなのだが、散らばるお金を見つけた瞬間、僕は急に事件性を感じ、恐怖、戦慄した。
つづく