乃木オタが推しに会って、テンションが上がった結果、エッセイを書いちゃった。
はい、注目。
今日は皆にある人物を紹介する。
それは、生田絵梨花である。
今「誰それ?」と思った不届きもの。それはお前が無知蒙昧なだけだ。反省しろ。
そして、生田絵梨花を知っている同志。力強い握手を交わそうではないか。
この魅力あふれる一人の女性を、今日は喉が張り裂ける、否、キーボードが壊れるまで語っていく。
生田絵梨花は、乃木坂46という日本のトップ女性アイドルグループの元メンバーである。彼女は十年近くグループに在籍していたため、必然的にこの時期のことを話すことになる。今、「乃木坂46?」と頭に浮かべた不届きものの中の不届きもの。その場で腕立て伏せ一〇〇回だ。
地を這いつくばっている者どもは置いておいて、私と彼女の出会いを語ろう。
最初の出会いは高校二年生の頃だ。学生らしくSNSを眺めていたところ、一つの画像を目にした。それは白いセーラー服を身にまとった黒髪の美少女。そう、それが生田絵梨花だ。この瞬間私の脳内に電流が走った。
「可愛い」
ゲシュタルト崩壊するほど脳内に再生された。こういうと「どこが好きなの?」とよく聞かれるが、もちろんすべてだ。しかしより絞るのであれば顔面だ。まさしくタイプ。ど真ん中の直球だった。
こうして私は生田絵梨花という存在を認識した。人生の大いなる一歩である。
しかし、高校三年生の夏まで所属していたバスケ部が忙しすぎて何もできずにいた。全く不甲斐ない。タイムスリップしてビンタの一つでもくれてやりたい。
「忙しいことが問題ではない。行動を起こさないことが問題だ」と。
そして引退を迎えた私は行動を起こす。
その行動とは、握手会だ。
握手会は字義のごとく握手をする会である。そう聞くと、男が可愛い少女の手を求めるようで気持ち悪いが、握手会の目的は握手ではない。その最大のメリットは、実際にアイドルに会えると言うことだ。握手は不可抗力である。
しかし大事件が起こる。なんと、生田絵梨花が学業優先で活動を休止したのだ。ちょうど9Thシングル「夏のFREE&EASY」の頃で、彼女は高校三年生だった。ちょうど受験期だったのだろう。ちなみに私と同い年である。
学業優先ならばしょうがない。本人の意思を尊重すべきだ。だから復帰後に握手会に行けばいい……なんて生ぬるい。すでに賽は投げられたのである。
私はすぐさま握手会会場を調べ、千葉にある幕張メッセへ赴いた。駅に着いた私はどこへ向かえばいいかわからなかったが、ぞろぞろ駅から出てくるオタクを見つけた。あれは私より先に乃木坂46という存在を認識した偉大な先輩。あの方々についていけば目的地に着く。そう思った。実際着いた。ありがとう。
こうして私は会場に入った。もちろんボディチェックやカバンの中身を確認された。初めての経験で少しばかり緊張したのをおぼえている。
中に入ると、人、人、人。眼下には多くの人が立ち上るほどの熱気を纏い、列を成していた。まさしく戦場。ひるんだ私は立ちすくみ、身動きが取れなくなった。しかし、法令順守のかけらもないバスケ部で生き抜いてきたのだ。負けるわけにはいかない。重々しい足を一歩踏み出し会場へ降り立つ。
今回は全国握手会である。初回限定版のCDに封入されている握手券が必要だ。
この情報は事前に調査済みである。諸君、情報とは武器だ。常に相手より情報を集め、有利に戦況を進めよ。
会場でA,B,Cと三タイプあるCDを一枚ずつ購入した。そして、個別握手会のブースに並ぶ。
結果だけ言おう。すごく楽しかった。ここではそれだけ言っておく。
自慢ついでに、私が今まで握手したことがある主要メンバーを記載しておきたい。
生田絵梨花
白石麻衣
橋本奈々未
深川麻衣
高山一実
生駒里奈
堀未央奈
すごくないか? 申し訳ない。本当にただの自慢になってしまった。
話を戻そう。こうして私は初めての握手会を終え帰路についた。その記憶はあまりない。あまりの衝撃で呆然自失としていたからだ。
しかし、まだ生田絵梨花の握手会に行けたわけではない。復帰までにはあと一か月ほどある。どうするか……決まっている。行動あるのみ。そう考え、今まで放送されてきた乃木坂46の冠番組「乃木坂ってどこ?」通称乃木どこの過去放送分すべてを観ようと決めた。
全く苦にならず、すぐ見終わった。その番組内でも生田絵梨花は輝いており異彩を放っていた。いくつか紹介したい。
その前に。そこの眠たそうにしている阿呆ども。滝に打たれて目を覚ましてこい。
番組内で特技を紹介する回があった。そこで生田絵梨花はピアノを披露した私自身もピアノを多少たしなむので親近感が湧いた。まあ、なんにでも湧きそうではあるが。そして披露した曲は「猫ふんじゃった」や「エリーゼのために」ではない。なんとショパンの「エオリアンハープ」だ。心底びっくりした。まさかショパンのエチュード曲を弾くとは。のちに彼女は音楽大学に進学する。まさに才色兼備。容姿端麗。一顧傾城。
しかしそんな彼女にも欠点はある。それが料理だ。アイドル番組で定番の手料理。私が観た放送回のお題は、出汁巻き卵であった。出汁巻き卵は、普通の卵焼きより出汁を含んで柔らかいため作る難易度は上がる。しかし難しい料理ではない。出汁巻きにならなくても卵焼きくらいにはなるだろう。そう私は思った。
彼女は料理開始前、意気揚々と大きな双眸を輝かせながら、「作れると思います」といっていた。スタッフもこのお題では面白い展開にはならないと思っただろう。しかし、その期待は裏切られた。
なんと溶いた卵をフライパンも敷かずにIHコンロにそのまま流したのだ。
「ええええええ」
とスタジオでは悲鳴だか喝采だかわからない声が響き、テレビの前の私は腹を抱えて笑った。そして出汁を入れていないと気がついた彼女は、なんと煮干しをそのまま溶き卵の残骸に放り込んだ。もう止まらない。制限時間が迫り焦った彼女はそれらを皿に流しこみ、「完成」だと言い張った。一つの曇りもない、いい笑顔でだ。
そう、それが生田絵梨花である。可愛いだろう。そんなところも魅力である。
さて、「ここまで来て、まだお前は生田絵梨花に会えないのか?」と思う方々もいるだろう。そう焦るな。ここで少し進展がある。握手の距離とまではいかないが、実物を見ることができた。なぜなら、復帰後に生田絵梨花の初主演ミュージカルが公演されることになったからだ。
ゆえに、朝一〇時にチケットを取る必要があった。しかし平日のため学校がある。ではあきらめるか? 否、正面突破である。私は授業中にスマホを操作しチケットを確保することに成功した。
「そんなことしていいと思っているのか」
そう聞こえてきそうだが、いいことを教えよう。何かを得るには何かを捨てなければならない。そして私はモラルを捨てチケットを得たのだ。
ミュージカル当日。私は天王洲アイルにある銀河劇場に行った。席は三階席の一番前。遠いが悪くない。ついに本物の生田絵梨花に会えると思うと、心臓が早く脈打ち気持ち悪くなった。しかし脈がなければ死んでしまうので、気持ち悪い方がいい。
開演ブザーが鳴る。幕が上がるとともに、白い純白のコンサートドレスを身にまとった生田絵梨花が登場した。コンサートを控える少女の役だ。彼女は役に入り込み、そこに生田絵梨花の気配はなかった。迫力あるその姿に目が離せず、物語に引き込まれていく。初めてのミュージカルだったが、こんなにも面白いのか、と今まで観劇してこなかったことを悔いた。
魅かれるうちに、三時間近くの公演時間はあっという間に過ぎていく。
そして最後のシーンで、生田絵梨花がショパンの「革命のエチュード」を演奏した。それがどうしようもなく格好良くて、私の心に漠然とした情動が突き上がった。
そして、こんなにも人を感動させることのできるアイドルという仕事に脱帽したのだった。
ここで生田絵梨花の情報を確認しておく。一九九七年一月二二日のドイツ生まれ、東京育ち。推しカラーは黄色×黄色。愛称はいくちゃん。好きな食べ物はうどん。1Stシングルからずっと表題曲を披露する選抜メンバーに入り、福神というAKB48でいう神セブンに値するポジションから落ちていない。そして、10Thシングル「何度目の青空か?」で初めてのセンターを務めた。
なに、覚えられないって? いいから暗記するのだ。人には避けては通れない道がある。それが今だ。心してかかれ。
さて話を戻そう。
ついに念願の握手会がやってくる。
生田絵梨花復帰後初の握手会は、個別握手会となる。そのため事前に公式サイトから個別握手券を購入する必要がある。もちろん抜かりはない。しかも会場は地元であるパシフィコ横浜だ。早めに乗り込み、個別ブースが開いたと同時に列に並び始めた。一度経験した私は、先輩方と同じ熱気を纏い、立派な戦士となっていたことだろう。
そして握手会が始まる。私は、メンバーがゾロゾロと自分のブースに入ってくる気配を感じた。生駒里奈の特徴的な声が響くと会場が色めき立つ。あの声が自身の耳朶を打ったことに感激したのだろう。
私の番は前から六番目。すぐに来る。一人当たりの握手の時間はおよそ七秒。五人で三五秒。入れ替わりの時間を入れれば四〇秒後といったところだ。
この四〇秒が待ち遠しい。一人、一人とブースから抜けていく。ついに前の人がブース内に入った。私は荷物を置き、汗が滲んだ冷たい手を係員に見せる。そして七秒後、私の番が来た。一歩進むと、ブースに遮るものなどないはずなのに、まばゆい光に行く手を阻まれたように感じた。しかし、ここまで来ておめおめ帰るわけにはいかない。私は大きく一歩踏み出し、それを振りはらった。
すると、そこには本物の生田絵梨花がいた。
透き通るような肌に大きな双眸。黒い髪は肩のあたりまで伸びている。全身を白色でコーディネートしており天使のようだ。清楚で可憐。しかしその笑顔は、人を射抜く悪魔的な魅力を持っている。私は、もれなくそれに射抜かれた。心の臓を鷲掴みにされ、心拍を掌握されたのだ。
そして私の脳内で電気信号が火花を散らした。
めっちゃ可愛い。
めっちゃ可愛い。
めっちゃ華奢。
私の自意識ではなく、無意識がそう叫んだ。
そして、ミュージカルを観劇したことを伝えると、たいそう喜んでくれて、絶対次も行くと心に決めた。多分相手の思惑通りだろう。しかし相手の思惑に乗るのがファンの仕事である。
「お時間です」
七秒経ったのだ。私の時間はここで終わる。
係員が声をかけた時、私の心は天に昇るほど燃え上っていた。しかし「剥がし」の時間である。彼らも仕事なので恨むのはお門違いであるが、ほんの少し睨んでやった。
ブースから出ると、ぼーっとした不思議な感覚に満たされた。それが何であるかはわからない。しかし、私はそれを知っている。温かく、冬のベッドで眠っているような。幸せで、どこかせつない、そんな感覚だ。
すでに気がついた人もいるだろう。握手会であるのに握手した描写がないと。その通りである。つまり、握手会において握手の重要度はその程度であるということだ。
ここまでが私が生田絵梨花と握手するまでの経緯である。皆、握手会に行きたくてしょうがないだろう。隣の人と握手して欲求を抑えるがいい。
さて、ここで重要なことを考えなければならない。それはこの話をどこで止めるかだ。正直いつまでも語ることができる。この後に「初めてのライブツアー~ドキドキ生写真交換会編~」もある。しかしそこまで語っては私の自己満足になってしまうかもしれない。このエッセイの一番の目的は、生田絵梨花に興味を持ってもらうという一点に尽きる。そこは達成されたのではないか。
ここまで生き残ってきた皆はすでに生田絵梨花ファンである。否定しようとも私が認定する。あとは自分の生田絵梨花道を突き進むのだ。
これにて終わるが一生のお別れではない。生田絵梨花のファンである限り、必ず会うことができる。その時までしばしのお別れだ。では。