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 みのがし様(2)

それから数十年後、治兵衛もこの世の人でなくなった頃、武州の川越で名の知れた海産物問屋の越後屋金五郎方に、美人の誉れ高い娘のお千代という者がおり、祝言の勧めはあったが頑として首を縦に降らなかった。それもその筈、お千代は手代の才蔵に惚れていたのだった。才蔵も手代という役目柄表向きには言えないが、夜更けにこっそりと会瀬を楽しんでいたのであった。

それをよく思わなかった父親の金五郎と母親の おつたは、無理やり二人の中を引き裂くようにしてしまい、才蔵は余っていた蔵の中に幽閉され、お千代は江戸の木綿問屋の嫡男千代太郎に嫁ぐことにされてしまったのだった。

才蔵は蔵の中でわんわん泣きわめき、その晩は眠りこけてしまった。だがその夜、不思議な夢を見たのだ。古ぼけた社に男女二人が詣でて、その二人が遠くに逃げおおせるというものだった。

ふと目覚めた才蔵はその社については心当たりがなく、翌朝飯を運んできた下男の三平にそれとなく聞くと、それは所謂みのがし様という社であり、訳あって逃げなければならない者や島送りにされそうな悪人が拝むとそれを隠してしまい、追手に見つからないようにしてくれる神様と言った。


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