クロワッサンとウクライナ

彼女はピカールのクロワッサンの焼き立てを頬張りながらセルフネイルした爪を眺めるのが好きだった。ピカールというのはフランスの冷凍食品のお店で通販もやっていた。彼女は読売カルチャーセンターのパン屋を巡る会にも参加するほどパンが好きだったが、そこで思ったのはパンは焼きたてが一番美味しいということだった。彼女はパン屋の天然酵母のハード系のパンが少しだけれど苦手だった。しきりに雑誌などでベジタリアンの人とかがハード系のパンを薦めるのを冷ややかな感想を持って見ていた。それはそれぞれの人の好みではあったが、流行りに迎合している人が少なからずいることに彼女はあまりいい気持ちがしなかった。その点ピカールのクロワッサンは形成した状態で冷凍して送られてくるのでそれをオーブンで焼いて焼き立てを食べるのが彼女の週末の楽しみだった。
セルフネイルも、彼女ははじめあまり好きではなかった。リムーバーが爪を痛めるのではないかと考えていたし爪が可哀想だと考えていた。しかし歳と共に少し休憩させながらなら爪に綺麗な色を塗るのは罪のない幸せの求め方ではないかと考えを改めるようになった。彼女は1度だけネイルサロンでネイルしてもらったことがあった。ゆっくり座って軽い雑談をしながら爪をお手入れしてもらっていると、彼女は幸せのあまり涙が流れた。知らず知らずのうちに疲れていたのだなと彼女は思い、たまには自分を労ることも必要だなと思った。ネイルサロンは少し贅沢だと思ったので、セルフネイルにしたわけだが、彼女は若い人が爪を綺麗にしていることに不快な感覚はなかった。むしろきちんとお手入れしていて感心するのだった。ピカールにしてもセルフネイルにしてもなくてもいいものかもしれないが、いいものはいいと思う素直な気持ちを彼女はなくしたくなかった。だからといって彼女はウクライナの情勢にも関心を寄せていないわけではなかった。ネイルをしてクロワッサンを頬張っている人が社会情勢に興味がないと思うのは偏見だ。彼女はかわいそうだがゼレンスキーが降伏すればいいと思っていた。社会主義の国になってしまうのは残念だが、独立することを条件に出せば、ベトナムのように発展する可能性があると考えた。朝鮮半島のように分断されるよりは、社会主義国として独立した方が国民は幸せなのではないかとちきりんという人が言っていた。ご近所の方から旦那さまのベトナム出張のお土産のチョコレートをいただいたが、パッケージがとてもおしゃれでチョコレートもおいしかった。少なくとも韓国のお土産よりセンスがあるように思った。どちらにしても何も罪のないウクライナの女の子がネイルをして焼きたてのクロワッサンを食べられる日が早く来ることを願ってやまない。

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