ジャムのベタつき
リンゴジャムを食べたらどこかが必ずベタつく。
ほっぺた、手の甲、テーブルの淵、足元の床。
つけたつもりはないしこぼしてもいないのに、どこかが必ずベタついて触ってしまったり、足の裏に着いたりする。
心の傷もリンゴジャムのようだ。別に意図して傷つけようとしたわけではないけれど、人によってはジャムを踏んでしまった時のようにどうしても笑えなくて水で濡らして洗い流さなければ取れない。
それはどんなに少量でも目に見えなくてもとても嫌な気持ちになって、乾いていたままだと擦ったら広がって不快感が大きくなるだけだ。
かと言って絶えずウェットティッシュを持ち歩くような女々しい行動もしたくないし予防のためにリンゴジャムを嫌いになることもできない。私はリンゴジャムが大好きなのだ。
なんとか乾いたままでもリンゴジャムのベタつきを取り去ることはできないかと考えながら、あらゆるところにこびりつくリンゴジャムを愛さずにはいられない。
それはさながら可愛がっていた息子からうっせえなと言われた時の心の傷と同じだった。それはさながら夫から任せるよと言われた時の焦燥感と同じだった。
大したことはないのだ。ただジャムがこびり付いただけ。なのに、どっと疲労感が押し寄せ心がざわめくのだった。そしてそのリンゴジャムをぬぐって笑顔を作るために自分の人生の大半を使っているなと思うのだった。
その都度拭っておかないとあちこち広がってしまうベタつきはさっさと拭い去って晩御飯のことを考えようと思うのだ。さらっとした和食にしよう。