カバー小説/逝化粧
椎名ピザさんの企画に参加しています。
トガシテツヤ様の掌編をカバーいたしました。ぜひオリジナルからお読みください。
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「雪化粧をした富士山です。さすが静岡」
静岡に旅行に行っている彼女から写真とメッセージが送られてきた。
僕の地元で一緒にスキーするのが毎年恒例のはずなのに、なぜ今年は違うんだろう。
一人寂しく目の前にある雪と彼女の美しい顔を重ねてみた。
やっぱり君と一緒でないとつまらない。
「凄くキレイ! やっぱり富士山には雪が似合うね!」
そう返信したけど、気分は少し落ち込んでいた。
彼女は僕に対して嘘をつくような人じゃなかったのに。誰かに無理やり付き合わされたに違いない。
そう思って昨晩こっそり指紋認証を解除してLINEを見たら、知らないヤツとのやりとりが残っていた。
「彼氏さん、大丈夫?」
「会社の女の子って言ったら信じた。
ちょろい👍
でもスキー場で誰かに会わないか心配」
「バックカントリーだから誰もいないよ」
「え。やばくない?」
「禁止区域じゃないから平気っしょ
一面の雪化粧が楽しみだね」
「パウダースノーをふたり占めだね💛」
どいつもこいつも、なぜ「雪化粧」という言葉を軽々しく使うのか。みんな「雪化粧」の本当の意味を知らない。
東北の山間部、特に降雪量が多い一部の地域では、雪化粧を「逝化粧」と言い、雪や寒さで亡くなった人の表情を例える「忌み言葉」となっている。
母の出身地が、まさにその地域だ。母は「美白」という言葉さえ嫌っている。母の美しかった笑顔を思い出して溜息をつく。
そっくりな彼女を見つけたと思ったのにな。
暫くすると、楽しそうな黒い人影がふたつ、徐々に近づいてきた。
彼女のスマホに位置情報アプリをインストールしておいてよかった。
「気を付けて。君自身が雪化粧にならないように」
彼女へのメッセージ。送信ボタンを押す前に消す。
余計な履歴は残さない方がいい。
僕はそっと看板の向きを変えて息をひそめた。
(了)
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トガシテツヤ様
素敵な掌編小説をお借りいたしました。
駆け込み参加表明を見て、このチャンスを逃すまいと慌てて作品を漁りました~。
ということで〆切寸前の滑り込み投稿です。
雪化粧が忌み言葉というのは本当でしょうか。創作ですか。興味深いです。
「カバー小説」企画を立ち上げてくださった 椎名ピザさん、お疲れ様でした。大変楽しませていただきました(≧▽≦)