映画「栗の森のものがたり」
2023年最後に観賞した映画
directed by Gregor Bozic
Starring: Massimo De Francovich, Ivana Roscic, Tomi Janezic, Giusi Merli
イタリアとユーゴスラビアの国境に位置する広大な森を舞台に、ケチな棺桶職人と夢見る栗売りの人生を絵画のような映像美でつづった大人の寓話。
1950年代、美しい栗の森に囲まれた国境地帯の小さな村。長引く政情不安から多くの人々が村を離れていく中、老大工マリオは家を飛び出したまま戻らない息子からの連絡を待ち続けていた。マリオは自分勝手な男で頑固、腕のいい大工だったが、今は棺桶を作るぐらいしか仕事がないので、賭け事で小金を稼ぐのみ。年老いて身体がままならない妻を労るどころか罵るありさま。ついに病の床についた妻を連れてたった一軒しかない医者の元に連れて行くもなすすべもなく、やがて妻は死ぬ。たった一人になって、自らももう生きる気力も残っていない、時折、幻想や幻聴と戯れるぐらいしか時間はなさそうだ。一方、栗売りのマルタは、戦争へ行ったまま帰ってこない夫からの手紙と数枚の写真を手がかりに、現在夫が住んでいると思われるオーストラリアへ旅立とうとしている。ある日出会ったマリオとマルタは互いの境遇を語りあい、やがてマリオはマルタにある提案を持ちかけるが……。
冒頭のシーン、棺を埋めた? 穴に、栗を山のように放り込み、落ち葉で埋めて跡形もなくしてしまうシーンが出てくる。
栗って食べるんじゃないの? え? イガごと放り込むってことは、落とし穴か何か??って謎に思うんだけどね。
そして、老人マリオがうたた寝してるんだけど、馬車に乗ってる女たちのおしゃべりも全く意味不明な状況、
そんな「???」な冒頭から始まり、美しい風景、大きな森、川。森の美しさに豊かそうに思えるが、そこに忘れ去られたような村があり、人々の暮らしは行き詰まっている・・・大工の仕事もないし、栗も別にそれを売って儲けるという感じもない。
若い女性マルタが拾い集めた栗をうっかり川に流してしまい、それが流れて行くのを必死に拾い集めるシーンがあるが、川面に栗のイガが流れて行く・・・それすらも美しい絵になっていて、ああ、こういうところが、画家に描かれ後世に伝えられていった場所なのだろうと思う。
頑固もののマリオは、妻に対しても超頑固で労りの「い」の字もないって感じだけど、妻に死なれてしまい、その寂しさと侘しさ・・・その彼らの前に時折現れる幻聴? 幻想? の中で歌い踊る3人の道化たち・・・なんかこの辺、キリスト教の3人の博士とかのメタファなのか、何かこの場違いな滑稽さがかえって不気味。
普通に暮らしていて、接点が全くなかったはずの若い女性マルタに対し、マリオは彼女が新世界へ旅立とうとしていることを知り、お金を渡して背中を押す。これすら、マリオの夢の中に起きた幻想なのかもしれない? 栗の森しか誰も知らない、誰も語らない、ものがたり・・・
マリオとドーラが最期まで望みの綱だった、「帰ってこない息子」のモノローグが最後の方に出てくる・・・そうか、今はもう、栗の森しか残っていない場所なのだろう。
最後に、冒頭の全く謎だったシーンがもう一度出てきて、ああ、この物語を最後まで見たあなた(鑑賞者・私)には、もうお分かりですよね?って感じで結ばれていく。
言葉で説明がつけられないけど、ああ、すごく印象に残る作品、美しいけれどそこで止まってしまった誰も知らない「ものがたり」。映画ならでは!の作品だったなぁと・・・
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