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手のひらに書く

失語症の後遺症がある夫が私と一緒に作ってる「チェックノート」
感覚性失語と言われる夫は、一度言えた言葉を他のシチュエーションでも繰り返すという「保続」の症状があり、最初は「学校」「先生」「○○(妹さんの名前)」だった。私のことを呼んでいるのに、口から出る言葉は「○○(妹さんの名前)」になってしまうのだ。
都度都度、「それ、違うよ」と言い直ししてもらって、やっと私の名前はちゃんと呼べるようになったけど。本人に間違った名前で呼んだという意識がないのだ。
口をついて出てしまう・・・まさしくそんな感じ。
「学校」も、「先生」も、全部その言葉で片付けちゃうので、家族なら「なんのことを学校と言っちゃってるのか」がわかるけど、知らない人が聞いたら全く意味不明だろうと思う。

私は日本語も英語も、割と文法からきちんと学ぶのが好きで、英語の発音も「理詰め」で考えるのが好きだった。
小さい頃にボストンで暮らしてネイティブの発音に晒されて身につけて来た夫と、理詰め理詰めで英語を学んできた私とは、よくその辺で衝突したことがあったなぁ。まぁ、軽い「見解の相違」的なもんだけど・・・

日本語だろうと、英語だろうと、唇や喉や歯を使って発声するのだから、音の作り方は同じはず。
ふと、今の失語症を抱える夫が発声しにくい音に共通点があるのに気付いた。
P,B,M ・・・破裂音の中でも唇を閉じないとうまく発音できない音が苦手なのだ。
さらにG、Kに苦戦している。
無声音と言われる「ん」も。
耳はちゃんと聞こえているのだが、それを自分で音に出せないのだ。

この辺、理屈で覚えていくのが得意だった私は、感覚的になんとなく身につけてきた夫に、どうやったら「この音だよ」って伝えられるんだろう・・・
唇を閉じて出せる音の場合は、割と簡単だ。夫の唇に指を当てて「口閉じてから」って言えば、ちゃんと「ぶりん」「ぶた」「みかん」も正しく発声できる。

夫が大好きな「ぎんなん」(銀杏)
大苦戦している。家の前にイチョウの木があり、先日来の風雨でいっぱい銀杏が落ちてるのだ。
ぎんなん・・・がなっかなか言えない・・・
「ぎ」も「ん」も一度喉の奥で空気の流れを止めて出す音なんだよね。これ、意識して知ってると「理詰め」で出せるんだけど・・・夫は多分、今までそんなこと意識したことなかったんだろうなぁ。自分自身ではちゃんと言えてるつもりみたいなんだけど、ぎが違う音になってる・・・

歩いていたのでチェックノートが手元にない。
思いついて、手のひらにひらがなを書いた。
夫は、他の多くの失語症の方よりは、「ひらがな」得意なのだ。

あ、ちゃんと言える!!

頭に「ヘレン・ケラー」の一場面が浮かぶ・・・
昨年だったかに見た映画「桜色の風が咲く」も・・・視覚も聴覚も失われても、指があれば文字が書ける・・・手のひらで文字を感じて、それと解る・・・
これらの感覚を結びつけてるのが、脳の働きなんだよ、ちゃんとできるんだよ。

「脳が死んでるんだから」とほざきやがった脳外科の医師に、ザマァみさらせ!と啖呵切ってやりたい!!(私の闇)

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