【チラ見せ】春と空とミニスカート(『帝立超絶軍学校のいろんな変人がバトル。』冒頭案)

今日も、春の空は、高く見える。

 その高く、注いだ蒼。そして、桜が咲く、校庭。
目の前の窓辺から、花びらが散るのを、頬杖をついて、ただぼんやりと見ていた、当主人公『ニコラス・フォン・ミューゼル』は、
この席、『校舎別棟講堂』の長机の一番隅に座りはじめて、もう長い。

 隣に座る友人は、あまり焦る様子もなく、その手元でプリントを書き写していた。きっとこの春に、学年が上がってから出た、休課題の未提出分を、写させてもらっているのだろう。
写しの元種は、きっとニコラスが答案したプリントなのだ。

 彼が課題を書き写すのを、ただ隣でじっと待っていたニコ。
桜が透ける窓辺のガラスに、友達が姿が淡く淡く重なって映っていたのが、見えた。

 高校生になってから一年がたった。中学の頃よりも、待つことが得意になった気がする。
それはいい。

「これって、明日までに提出だっけ?」
窓辺の友達が、ニコラスの方を向いた。
「いや、今日までだよ。完全下校までに出さないと遅れだよ。」ニコラスは答えた。
「マジか。急がないとな。」
と、彼はまたプリントの方を向いた。ただ特別、急ぐ様子も見せなかったが。

「お前、さっきから何見てんの?外見てさ。」
友達はプリントの方を向いたまま。
「別に何も。ただ桜が綺麗だと思っていた。」
「へー、意外。お前がそんなこと言うなんて。」
「何がだ?」
「景色を見て綺麗だなんてさ。しかも花なんて。外界に興味を示すなんて意外だ。」
「辛辣だな。結構。ほとんど、内向的な根暗って意味だろう。」
「え、そうじゃないのか?隠キャだろ、お前も。」
「お前もな、俺と同じく。」
「お前よりはひどくない。」
Amenそのとおりだな。同意するよ。」
「へー、素直。」
「春だしな。」
「天気雨でも降るかもな。お前が素直なんて、気味が薄い。でもまあ、いいんじゃないか、そっちの方が。」
友達はようやくプリントを写し終わって、伸びを一つ。

「春の研修、『リラホン』さんと一緒になったんだっけ?」
「ああ。」
「この前、『リラホン』さんに告白したのはいつだ?何回目?」
「今朝。何回目かは・・・そうだな。ことあるごとに好きだとは表明してるから、何回かは覚えていない。」
「しつこい男だねえ、ストーカーだ。」
「まあ、捉え方によっては。否まないよ。」
「へへへ、メンタルは折れないね、ニコラスの癖に。んじゃ、もうプリント提出しにいこうぜ。」

『ガラガラ』と。
それは、実は、彼らが席を立つ前だった。音を立てて、扉が開いた。
講堂型の広い教室の前出の扉だった。

「なんだ。ここにいたんだ。ニコ。」
近づいて生きたのは女子生徒だった。

背は平均よりやや高い。肩幅もあった。
学校指定の赤い制服を着て、長い金髪をツインテールにまとめている。
はっきりと、こめかみで。

明朗で明確な眼差し、その瞳の色は蒼い。
鼻はやや高かったが、小鼻が綺麗で、顎の輪郭もはっきりとしていたから、端正で大人びた印象を与えた。

その綺麗な顔立ちがニヤッと子供っぽく八重歯を見せて笑った。こちらの席に近づいてくる。

 片手にはプリントをひらひらさせていた。
ミニスカートの腰元をヒョイとあげ、机に座り、ニコラスの方をじっととらえた。そのはっきりとした意志と生命の通った目で。
相変わらず、いたずらっぽく笑っていたが。

「課題見せて。ニコ。まだ終わってないの。」
「五百円だ。君は貴族だからさらにもうプラス二百円。」
「何?お金取るの?もう少し真面目じゃなかっけ?ニコってさ。」
「君の方こそ、上級貴族のくせに机の上に足なんてあげて。もう少し上品で丁寧なやつじゃなかったか?リラホン。」
「『リラン・ホーフマンスタール』よ、私の名前は。ファーストネームでリランでいいわ。いつも言ってるじゃない。私の大切な友人なんだから。」
「やめとくよ。下の名前で呼んでしまったら、余計好きになってしまうよ。君に沼ってしまう。」
「そう?でも問題ないじゃない。沼に溺れるぐらい恋に溺れるなんて、素敵よ。いい男だと思うわ。」
「そんなこと言って、俺が君のストーカーにでもなったらどうするんだ。」
「焼き払う。」

彼女はクシャッとした朗らかな、優しい笑顔で笑った。
「でもニコラスはそんなことはしないわ。あなたは人を傷つけられない人だもの。人がいいの。とてもね。」
またはっきりとした眼差しで、真っ直ぐにニコラスの瞳を見て、リラン・ホーフマンスタールは言った。
「人を傷つけたことぐらい、俺にもあるよ。」
「でもきっと、わざとじゃないわ。」
「どうだかね。」
ニコラスは彼女の目を頬杖から見たままだった。

「じゃ、ニコラス。俺、先行くね。」
と、先の友人はもう立ち上がって向こうを向いてた。
「リラホンさんも今年もよろしく。俺、ニコラスの友達。平民出身。」
「ええ。『エース・トラバース』さん。あなたのことはよく知ってるわ。『教官』から、随分と大変な役割を振られてるらしいけど、そうね。あなたならきっと大丈夫な気がするわ。」
「なんでそんなことがわかるんだかね。」
「大丈夫。私の勘は当たるの。」
「そんな堂々と。本当に聞こえるから恐ろしいよ。最上級貴族ってやつの言うことはさ。」
「あら、私の名前はリラン・ホーフマンスタールよ。最上級貴族だなんて、名前じゃないわ。」
「あっそう。でもなんて呼べばいい?」
「リランでいいわ。私の方こそ、なんて呼べばいいのかしら。」
「エースでいいよ。リランちゃん。」
「かっこいい名前ね、エース。」
「リンゴ農家の親父がつけた名前だよ。まあ、名前負けしないように頑張るさ。」
それだけ言って、彼は教室を去っていった。

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