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(毎週ショートショートnote参加作品)ジュリエット釣り

「今日のやつらは演技力が足りんよ」

助手はそれを聞いて腹の中で嘲り笑った。
演出家のこの男が無類の女好きである事は業界では有名だった。

オーディションにかこつけては自分好みの女優が現れると合格をちらつかせて関係を迫って、飽きたら捨てる。

今回の舞台、ロミオとジュリエットのオーディションも、裏ではジュリエット釣りだと揶揄されていた。

「次の方どうぞ」

入ってきた美女に助手は僅かな既視感を覚えた。
演出家は好色そうな笑みを隠す事なく女の方に近づいていった。

「では、ロミオの後を追って短剣で自殺するシーンを演じてください」
「はい。あ、短剣は持ってきています」

そう言って鞄から短剣を取り出した女は演出家の方に向き直った。

その横顔に、助手はいつかのオーディションで会った女の面影を見つけた。あの頃より少し鼻が高く、二重になっている。

確かあの女は釣られたはずでは、と思ったのと、キラリと光った短剣が演出家の腹に刺さるのが見えたのは同時だった。

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(410字)
たらはかに(田原にか)さんの企画に参加させていただきました!

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