(毎週ショートショートnote) 【バンドを組む残像】
久しぶりに顔を合わせた友人たちは腹も出て髪も少し薄くなっていた。
乾杯して程なくして、会社の愚痴が酒の肴になった。
上司や部下から挟まれる管理職の悩みや人間関係など、答えが出ない話を延々と。
お互い大変だなとため息をつきながら店を出た僕らが駅に向かって歩いていると、楽器屋を見つけた。
中に入って楽器を眺めていると、奥から店主が出てきて言った。
「奥で試し弾きしてもいいよ、みんなで」
学祭でライブをしたことを思い出し、僕らは各々の楽器を持ってスタジオに入った。
最初は遠慮しながら弾いていた僕らも、酔いが後押しして調子に乗り出した。
適当なノリの適当なセッションだ。
それでも汗をかきながら僕らは歌った。
今の僕らは、あの頃のキラキラした輝きが生み出した残像だ。
あの頃の格好良さはないかもしれない。でもいいじゃないか、残像がバンドを組んだって。
僕らは楽器屋を出て駅で別れた。
「また飲もうな」
友人が言った。
僕は笑って言った。
「また組もうな」