(毎週ショートショートnote参加作品)立方体の思い出
あの頃の俺は、暇さえあれば湾岸線を飛ばしていた。
派手にカスタムした愛車は否が応でも目立ち、警察に追いかけられることも一度や二度ではなかった。
海岸沿いの駐車場では別のグループがたむろし、その日の機嫌によって談笑する時もあれば、殴り合いの喧嘩に発展する時もあった。
あいつと出会ったのはその頃だった。
喧嘩で大怪我を負ったある日、病院に駆けつけたあいつは俺を責める事なくただ泣いて俺のそばにいた。
その瞬間、俺は恋に落ちた。
今、あいつは助手席で少し目立ち始めたお腹をさすっている。
俺はあの頃とは信じられないくらいゆっくりとした速度で車を走らせていた。
「お前も角が取れて丸くなっちまったな」
猛スピードで横を追い抜いていった車を見て、苦笑いを浮かべながらそう言ってきた友人の顔を思い出した。
「いいんだよ、俺は。尖っていたら大切なものも傷つけちまう」
ぐんぐん小さくなっていく車を見ながら、俺は自分が立方体だった頃の思い出を胸にしまった。
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(410字)
たらはかに(田原にか)さんの企画に参加させていただきました!