[ショートショート]草の自己紹介(毎週ショートショートnote参加作品)

「私の地元はこんな薄暗いところなんかじゃなくて、それはそれは綺麗なところでね。青い海と真っ白な壁の家に囲まれていたんですよ」
ピエールと名乗る草の自己紹介が続いている。
「我が家のご主人はいつも手入れしてくれていましたよ。こんな伸び放題の庭なんかじゃなくてね」
延々と続く自己紹介で分かったのは、こいつが運悪く渡り鳥に運ばれて遠くからやってきたという事と、人を不愉快にさせるやつだという事だけだった。
隣家の庭の草木が春の暖かい風に揺れている。あっちは平和なんだろうな、と草たちは一斉にため息をついた。

「踏まれても踏まれてもへこたれない。そんな姿でワシは有名になったもんだ。さしづめこの世界での草分け的な存在だな。ガハハ」
隣の庭では、長老と呼ばれている草の何百回も繰り返されてきた独演会がまた始まっていた。追従笑いをする聴衆はふと隣の庭を見て、あっちは平和なんだろうなと、そっとため息をついた。

今日も、隣の芝生は青い。

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今週もたらはかに（田原にか）さんの企画に参加させていただきました。

今週のお題は「自己紹介」と「草」でした。たらはかにさん、貴重な機会をいつもありがとうございます！