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国総教養区分総合論文試験の再現答案。


はじめに

春試験に比べて情報が少なく対策が立てにくいとされる教養区分。
特に総合論文試験は8/28と配点が高い割に対策が難しい

そこで来年度以降の受験者の参考になればと、以下に私が受験した2024年度の総合論文試験の開示結果と答案を載せておく。

注意
受験日から2か月程度経ってから記憶を頼りに再現答案を書いたため、本番の答案と異なる箇所もあるかもしれない。
この記事の内容と予備校の教材等との間に齟齬をきたしている場合、後者を優先すること。

開示結果

Ⅰ部は7点、Ⅱ部も7点であり、標準点に加算すると178点であった。他の記事によると6点が平均であるそうなので、7点はそこそこ良いのではないか。


Ⅰ部

設問 近年、人工知能(AI)の発展が目覚ましい。期待の一方で、様々な懸念も顕在化してきている。
資料1~3の内容をそれぞれ簡潔にまとめ、行政官はどのような点に注意して政策を進めていくべきか、あなたの考えを述べなさい。

※資料は、和文が2つと英文が1つ。AIに対して懸念を示した資料が多かった印象。
※著作権に配慮し、設問文を一部改変したほか、資料は省略する。

答案

まず資料1~3の要約をそれぞれ述べたうえで、行政官が注意すべき点について述べる。

資料1
AIネットワーク社会では、個人の特徴や個性を踏まえたサービスが提供される一方、経済合理性・効率性に基づき個人は類型化され、アイデンティティが恣意的に判断される可能性がある。また、AIの意思決定過程は不透明であり、人間の自律性や主体性を損なうかもしれない。このように、AIネットワーク化の進展は、憲法の個人の尊重原理と対立する危険性がある。
資料2
これまでの社会では、人間が理性を活かして主体的に行動することが求められていた。ところがAIが人間が独占してきた領域に進出し、信仰や理性に並ぶ手段となった。これにより理性の役割や個人と社会の目的が変容し、人間は自己認識の変革が求められるだろう。
資料3
現在、AIについて世界的な議論が行われているが、人間と機械・人工物の関係に関する考察には長い歴史がある。例えば古代ギリシアのゴーレムの寓話は、人が制御を失うことの危険性を、フランケンシュタインの話では、科学者は生み出したものに責任を持つべきだと示唆するなど、AIに通じる問題が提起されている。こうした「フランケンシュタイン・コンプレックス」は、西洋社会に深く根付いており、科学者や開発者は対処する必要がある。

2.行政官が注意すべき点
2-1.原則
AIについては、規制と振興の均衡をとることが大事である。個人の人格を脅かすことのないよう規制をする必要がある一方で、過度な規制は技術革新を阻み、利便性や安全性向上の機会が失われる恐れがあるからだ。
2-2.個人情報や著作権の保護
特に生成AIに関しては、個人情報や著作物を無断で学習するなど問題点が指摘されている。無対策のままであると著作権者の利益が損なわれ、創作活動が停滞する恐れがあるため、国は開発企業に対し適正な開発が行われているか報告を求めるべきである。行政がAIを使用する際には、行政は住民の個人情報を多数保有していることから、データとして学習させる際には特に注意が必要であり、開かれた行政の観点から基準を設定、公開することが望ましい。
2-3.人間による制御
資料1で述べられているように、AIの意思決定過程は不透明であり、事後的な検証や評価が困難である。規制行政など国民に不利益をもたらす場合には、最終判断は人間が行うべきである。
2-4.活用策
人口減少社会が進んでいる昨今、AIを活用することが急務となっている分野もある。例えば激甚化する災害に備えるため気象予報の精度を高めることや、教員不足が著しい学校教育、特に採点や書類作成の面では有効であり、国による研究投資が活発に行われるべきである。
また、AIはデータの収集に優れているため、住民の隠れたニーズをとらえる可能性があり、個々人に合わせた行政サービスを行えるようになる。

留意点

明らかに本番よりも字数が短くなってしまった。本番も字数が足りず思いつくままに書き足したため、記憶に残っていないのである。
「行政官はどのような点に注意して政策を進めていくべきか」が、うまく呑み込めなかった。すなわちAI戦略を推進する際に注意すべき点を書けばよいのか、政策全般でAIを活用する際に注意すべき点を書けばよいのか分からなかったのである。私だけですか…?迷った際に後者に重点を置きつつ前者にも触れるようにした。
本番では思いつかなかったが、

  • AIはバイアスを増幅させる可能性がある。

  • 全省庁が共通のものを活用することが望ましい。

  • 国民の心理的抵抗を緩和する措置が必要。

なども考えられる。

政府のAI戦略についてはこちらを参照のこと。


Ⅱ部

設問 我が国においてインターネット投票を実施する場合のメリット及びデメリットを示し、その実現に向けての課題について、具体的に論じなさい。

※資料は「年齢別投票率の状況」という題で、若い世代ほど投票率が低いことを示すものだった。

答案

1.メリット
インターネットは若者が主に利用するため、現在低調な若者の投票率向上を図ることができる。また、投票所への移動が不要となることでこれまで沿革の投票所に行く必要があった中山間地域の住民や、介護や育児で投票日に都合が合わない者の投票増加が見込まれる。これにより多様な意見を政治に反映することができる。加えて投票所の数を減らすことができれば費用の削減を図ることができ、財政赤字の縮減につなげることができる。

2.デメリット
気軽に投票できる反面、候補者の主張を十分吟味せずに投票する者が増加する可能性がある。これによりポピュリズム的な主張を唱える勢力が躍進し、不必要な財政支出や少数派の圧迫が行われる恐れがある。また、インターネットに不慣れな高齢者から反発が起きる可能性もある。対策として既存の投票所を引き続き開設することが求められるが、併用により費用がかえって膨らむ恐れがある。

3.実現に向けての課題
実現に向けての課題について、大きく3つに分けて述べる。
3-1.セキュリティ対策等
投票の集計がインターネット上で行われることで、海外の情報機関やテロ集団などからサイバー攻撃が行われ、投票データの書き換えが起こる可能性がある。これに対しては現在政府が整備を進めている能動的サイバー防御を実効性のあるものにすることや、高度なセキュリティ対策が欠かせない。また、コロナ禍で表面化したように、官製のアプリケーションは簡便さや機能性に欠ける傾向にある。システム開発の際には総務省・デジタル庁の連携に加え、民間の有志からなる会議体を設置し、助言を仰ぐことが必要である。
3-2.地方
地方選挙でも実施する場合、小規模な地方自治体は財政負担に耐えられない可能性がある。これに対しては、助成金等の直接的な支援に加え、国・自治体間で調整のうえで統一のシステムを整備し、導入費用を低減することや、広域連合の結成を促して複数の自治体で対応させることが効果的だ。
3-3.有効性
インターネット投票の導入により、特に若者の投票率向上が期待されているが、政治にもとより興味が薄い者にとり、利便性が向上したからといって必ずしも投票行動につながるとは限らない。導入の効果を大きなものとするには主権者教育の充実が必要である。わが国では主に高校から行われているが、小中学校から実施することで、選挙の重要性について十分理解させ、市民としての自覚をはぐくむ必要がある。また、各学校で政治家の講演会や座談会等を開くなどして、生の政治を体感してもらうことも一つの手である。

留意点


NHKの政治マガジンによれば、メリットとして職員の業務負担が削減できることや、実現に向けての課題として本人確認や通信障害への対応があげられていた。

  • 別の記事によれば、多数の職員を休日出勤させるため人件費が馬鹿にならないとのこと。

自分が若者だからといって若者の視点ばかり書いてはだめだ、高齢者の視点も取り入れるべきだと参考書にあった。


追記

2025年1月24日、政府よりAIによる悪質な事案が発生した場合に、調査や指導などを行うほか、適正な研究開発を図るとした法案が自民党に示されれた。
政府 AIによる悪質な事案発生の場合の法案概要 自民会合で提示 | NHK | 生成AI・人工知能

また、中国発の「ディープシーク」が現代のスプートニック・ショックとして話題になっている。AIは国総以外の公務員試験でも出そうな話題だ。


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