北海道のフライフィッシング 「おいっ!」の淵の川で危うく遭難しそうになる 第1章『目印はつけたか?』
全3話
第1話
平成27年。
それまで幾度も北海道へ川を探しに出向きましたが、釧路方面で出会った桃源郷ほどの体験はできないまま5年が経っていました。
その年は、それまでと違うスタイルでの釣行を試みてみました。
それまでは、JTBのパック旅行を利用しての釣行でした。飛行機とホテルとレンタカーの3つがセットになっており、それはそれで重宝していました。
しかし、ホテルに泊まると釣り場までが遠くなるという難点がありました。宿泊地をホテルに固定すると、どうしても釣りの時間を短縮せざるを得ませんでした。
そこで、この年から旅行会社で航空券だけ買い、宿泊はバンガローにし、レンタカーも自分で予約することにしました。
旅行会社に全面的に頼らない北海道釣行がこの年からスタートしました。
本当ならば、バンガロー泊ではなくテント泊がしたかったのですが、たくさんの装備を持って行くことに無理があり、仕方なくバンガロー泊にしました。
いずれにせよ、北海道で野趣味あふれる釣行が可能になったのです。
第2話
北海道にはキャンプ場はたくさんありますが、バンガロー、しかも値段が手頃となると限られてきます。
この年、3つのバンガローに一泊ずつ宿泊することにしました。
それぞれのバンガローを拠点に川を釣り歩きましたが、最終日になっても桃源郷に匹敵する川は、まだ見つかっていませんでした。
その日、最後に目星をつけたのは後志方面の川でした。
舗装された道路をぐんぐん上っていくと、道路に沿って車停めが見えました。
「とりあえず」という感じで車を停め、道路に沿った川に向かいました。
しかし、入渓するには2メートルほどの土手を下りなければなりません。
このとき、「帰り」、つまり脱渓時のために今から下りる地点に目印をつけた方がいいなとふと思いました。
が、早くロッドを振りたいという焦りから、目印を付けずに土手を降りました。
この流れでは20センチほどの虹鱒が数匹釣れましたが、このままでは終わりたくないと思い直し、車でさらに上流を目指そうと先程入渓した場所へ戻ることにしました。
第3話
ところが、先程川へ下りた場所が見あたりません。
見失った原因は、「下りられたのだから登れるだろう」と高をくくっていたことと、一刻も早くロッドを振りたいという焦りのため、川へ降り立ったときに目で場所の確認すらしなかったことです。
今更後悔しても仕方ありません。登れそうな場所を見つけてよじ登りました。そのとき義父は齢78でした。
私が先に登り、お義父さんのロッドを受け取り、さらに手を差し伸べましたが、
「大丈夫。」
とお義父さんは自力で登りました。
二人共無事土手を登り、一息ついて歩きだすと、3メートルほどで見覚えのある道が現れました。先程、車停めから下ってきた道です。
私達は、入渓点のほんの3メートル下流の土手をよじ登っていたことになります。ベストのポケットには、赤いリボンを入れてあったのですが、これを目印に使っていたらもっと簡単に脱渓できたに違いありません。
しかし、この後もっと大変な目にあわなければ「脱渓点の目印をつけておく」ということの重要性に気づかないのでした。
第1章『目印はつけたか?』完