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【超超短編】歩く

当てもなく道を歩いている。何故歩いていたかももう覚えていない。何処に続いていたかも知らない何もわからないまま、ただ歩いている。

歩いてきた道を戻りたいと思ったことはない。ここはずっと真っ暗闇でずっと腹も減らないで、なんの感情も動かなかったから。

どこかから赤子の声は聞こえる。自身の内から鳴る事に気づいたのはここ最近のことだ。かと言ってどうするでも無く一人歩いている。

いつどうやってここに来たかも、どこで生まれたかも思い出せない、が。確かに幼少の記憶はある。父親に殴られ、母親にはぐちぐちと悪口を言われ、そのしがらみを学校の机にぶつけ鉛筆で穴だらけにして教師に叱られた事も、友達を殴り、嫌われた事も自分がすり減っていった毎日はくっきりとこの背中に重くへばりついている。

だから最初からここにいるわけではない。それだけの所為で今歩いている。淀んだ明るさを求めて、ただ。

狂う事も死ぬ事も疲れる事も出来ずに光のない暗闇を。突き動かされるように、歩みを止めては死んでしまうと言わんばかりに。

音がしては歩みを早める。そこに何があるでもない。ゴルフのカップくらいの穴が空いていて声がするだけだ。大抵が掠れた呻き声、助けを求める声。だけどつい孤独を苦にして縋り付いてしまう。

自分以外にもこの闇を彷徨っている者がいるのか、とどこか安心をする。仲間意識すら芽生えてしまう。同じ境遇の人がいて嬉しい。そんな事でこの闇が晴れる訳でもないのに、どこか満足気に歩く。もう覚えていないくらい歩いてどこにも着いていないのに足を早める。

まだこの永遠に近い夜道を一人、道標もなく歩いている。未だ壁にはぶつかっていない。

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