鏡
その時、私は、車を運転していました。
青空が拡がっていて、暖かい日でした。
道も混んでいなくて、快調に進んでいました。
お昼の12時を知らせる音楽が流れたことを覚えています。
ある場所で、赤信号でとまりました。
なにげなくバックミラーに目を向けました。
鏡は真っ暗でした。
青空が拡がっているはずなのに、闇の中にいるように、鏡は、闇しか映していませでした、
ひやりとしました。
でも、目が離せませんでした。
いつまでも見ていてはいけないものだと分かっていても、突然のできごとに目を離せずにいました。
すると、見つめ続ける暗闇の中で、動くものがありました。
丸いものでした。
左右に少し揺れました。
「誰かいる」
そう思うと同時に、
「これ、やばい」
そう思いました。
見てはいけないものだと。
慌ててバックミラーから目を離しました。
ほどなく信号が変わったので車が動き始めました。
長く感じたけれど、数十秒の出来事だったんです。
バックミラーを見ないように意識して数分後、恐る恐るバックミラーに視線を向けると、背後の景色が普通にうつっていました。
知り合いに聞いたところ、「向こう側の世界を覗いてしまったのではないか」と言われました。
暗い中で動いたものは頭だったのかもしれない、と言うと、それ以上考えない方がいい、と言われました。
元々鏡を見るこは好きではなかったけれど、それからは本当に必要な時しか見なくなりました。
そして、鏡を見る時は、自分の顔しか見ないようにしています。
そこにいないはずのものがうつり込んでいたら怖いので。