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5.鳥も止まらぬとまりぎ
【今回の登場人物】
想井遣造 居酒屋とまりぎの客 麻里の相談相手
正木正雄 居酒屋とまりぎの親父
鵜木畑猛 山想小屋の小屋主
祭りの後の寂しさは
否が応でもやってくる
祭りの後の寂しさを
どう癒そうかと、人は心を彷徨わせる
5.鳥が止まらぬとまりぎ
祭りの後の寂しさ
居酒屋「とまりぎ」はそんな雰囲気に包まれていた。
ラグビーワールドカップの決勝戦が終わり、大賑わいだった「とまりぎ」はその人々が去り、いつも以上に寂しく感じられた。
白駒池居宅事業所の立山麻里も横尾秀子も、それぞれのケースの対応に追われていた。施設ケアマネジャーの甲斐修代も相も変わらず介護現場とのやり取りに追われていた。
滝谷七海も公私ともに忙しいのか、あまり顔を見せなくなった。
想井はポツンとカウンター席に座りながら、マスターの正木とラグビーの思い出話をしていた。
ただ、想井には気掛かりなことがあった。ラグビー熱気に追われ気持ちから少し距離が置かれていた山のおばばのことだ。
想井はほかに客がいないのを見計らって、山想小屋の小家主、鵜木畑猛に電話を入れた。
鵜木畑と電話をしている想井の表情は暗かった。
「親父さん、わかった。どのみち今週末には小屋に登る予定だったから。うん、わかった。ちょっと早めに登るわ。」
そう言って想井は電話を切った。
「おばばの具合どうや?」
事情を知っている正木が聞いてきた。
「どうも、あんまりよくないらしい。まぁ来週には小屋閉めだから、おばばをふもとまで担いで下すのを手伝いに行こうとは思ってたんだけどね。今週末には登って、戸締りの準備しながら、おばばのケアの手伝いもしてこようかな。」
「そやな~ ということは、想井さんもしばらくここには来られへんな。」
「なんや、親父さん寂しそうやな。俺が来なかったら客はゼロやで。」
「想井さんの一人や二人来なくても何ともあらへん。代わりに誰なりと来てくれるわ。とっとと山へ籠ったらええわ。」
正木はぼやきながらも笑顔を浮かべた。
「でも大概こんな話してるときは、誰か来るんやけどね。」
「そやな。」
二人は入口を見た。
しかし、とまりぎの扉は、開かなかった。
「親父さん、勘も当たれへん。こりゃほんまに客けえへんで。」
想井のその言葉にさすがに正木も渋い顔をした。
「まぁ、みんなラグビー疲れやな。しゃあない俺も臨時休業して釣りにでも行くかな~」
正木は元気なくつぶやいた。
「大丈夫、大丈夫、またあの賑やかなお嬢ちゃんたちが来てくれますよ。」
「そうかな~」
二人は再び入口を見た。
しかし扉は開かなかった。
「しゃあないな。明日まではまた顔を出すから臨時休業せんといてね。」
想井はそう言うと立ち上がった。
想井も一週間以上山籠もりするとなると、それなりに準備がいる。この日は早めに帰り、準備を整えてから明日もう一日、とまりぎに顔を出すことにした。
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