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2. 出会うべくして出会う人その2

「幾星霜の人々と共に・白駒池居宅介護支援事業所物語」

第4話 「ぬくもりの継承」

東京渋谷区白駒地区にある、白駒池居宅介護支援事業所のケアマネジャーや、それに関わる人々、そして北アルプス山麓の人達の物語である。 

【今回の登場人物】
  立山麻里  白駒池居宅のケアマネジャー
  月山信二  白駒地区地域包括支援センターの相談員
  秋元ユキ  麻里が担当する利用者
  待兼山子  麻里が担当する利用者
  仙丈 岳  仙丈医院の院長

運命のような出会い
それがあるのも
ケアマネジャーの仕事の
おもしろいところ

   2. 出会うべくして出会う人その2

 月山信二は秋元ユキが住むマンションの隣りにあるコンビニにも顔を出し情報収集した。
 やはりいつもお札で払い、同じコンビニの袋にお釣りの小銭を入れて持ち歩いてるという。特にここ数日はその小銭の入った袋を店員に渡し、そこから代金を取ってほしいということだった。
 月山はその話を聞いて、すでに年金をおろせなくなっているのだと判断した。
 彼の前には大きなハードルがいくつも立ち塞がった。
 即刻介護保険申請するにしても、病院を受診していないのでその受診から行わなければならない。さらに緊急の問題として、年金を下せなければ弁当が買えないというものがあった。
 電気、水道代は引き落としになっているようだが、とにかく食費の抽出は何とかしなければならない。
 次の段階では、ケアマネジャーの決定とサービスのみなし導入、さらに後見の申請も考え、金銭管理の検討なども行わなければならない。
 家主にはそれらのことを整理していき、順次滞納分から払っていく旨を伝え、追い出しにストップをかけるつもりだった。
 ただそれらの難題も、月山は淡々とクリアしていくのだった。
 まずは秋元ユキとともに、通帳などを探さなければならなかったが、介護認定がどうあろうと、居宅ケアマネジャーを先に決めておこうと月山は思った。これからどうサービスに繋げられるかわからない状況ではあったが、それでも一緒に動いてくれるケアマネジャーを決めることにした。
 本人にはまずは担当者を決める旨伝え、その決定は月山に任せるということだったので、月山は、これまでの活動の中でも信頼しているケアマネジャーとしてリストアップしていた、白駒池居宅事業所の立山麻里にお願いすることにした。
 やはり受診やこれからの生活支援を考えるなら、女性のケアマネジャーの方が良いと思ったし、立山麻里ならば、秋元ユキとは合うのではないかという直感からだった。
 その直感は見事に当たった。

 「あんた何してんの? それはそっちでなくてこっち!」
 「あ、はい、そうでした!」
 みたいな会話から、立山麻里と秋元ユキの繋がりが始まった。
 「あんた、掛布知らんの? 阪神タイガースの有名な選手やで! そんなら、バースやったら知ってるやろ。」
 「バース? お風呂ですか?」
 「何言うてるの、この子は?」
 と、笑い怒るような秋元の態度に、立山もにこにこと答えていた。
 立山麻里の少し抜けたところがある行動が、秋元ユキのシャキッとした言動や行動に繋がったのだ。
 基本的に月山も立山も、秋元ユキの生活上で厳しくなった点を踏まえつつ、まだまだ分かっているところ、出来るところに焦点をおいて引き出そうとするスタンスだった。
 立山のその行動は少し天然的であり、秋元ユキからすると、世話の焼ける子というような親心的な親近感を持たせるものだったのだ。
 月山はそこで早々に生活支援については立山に任し、自分は金銭管理等の手配などに動くこととした。
 まずは受診病院が必要だったが、白駒池地区や奥渋一帯にはもの忘れ外来がなく、認知症専門医もいなかった。在宅医療を行っている医院もなかった。
 そのような中でも内科を掲げている仙丈医院の仙丈岳医師だけは認知症の人に理解ある医者だった。岳と書いてたけしと読んだが、仙丈医師自身はこの名前が好きではなかったようだ。
 仙丈医院は患者が多い人気医院だったが、最初はその忙しさゆえか、認知症の人は余計な患者という態度だった。
 その仙丈自らが、白駒池居宅介護支援事業所に、「患者で来た認知症の人が別の患者の靴を履いて帰ってしまったので取り返してほしい」と電話してきたのだ。
 その電話に出て対応したのが立山麻里だった。
 麻里は「靴を取り返せって、なんでそんなことまでここに言って来るのか? 第一それは包括支援センターに頼むことと違うの?」と思った。そして仙丈医師に、何だこの医者? と、むっとした。
 しかし、これがきっかけでその靴を間違った人の状況がわかり、ケアマネジメントに繋がるかもしれないし、包括にたらい回しするのも気が引け、麻里は行動した。
 結果、これまでリストアップされていなかったゴミだらけの家に住む、独居の認知症の女性、待兼山子と出会うことになった。
 立山麻里は、その待兼山子への対応をきっかけに仙丈医師とのかかわりを深めた。
 仙丈岳医師は40代前半の活動盛りの医師だったが、立山の一生懸命さに認知症の人への理解も少しずつ持っていくようになった。
 そんな折、秋元ユキという新たな利用者が加わったのだ。
 「なんだ立山さん、今度はどんな大変な患者さん連れてきてくれたんだ?」
 仙丈は秋元ユキが検査を受けている間に、立山に気さくに秋元ユキの状況を聞いてきた。
 麻里が気軽に仙丈医師とやり取りできるまでにはもちろん、待兼山子だけでなく、その他の患者との関りの中でも良好な関係作りを築き上げてきた成果があった。
 その医師が信頼できる医師なのか、そしてその医師と適切な連携が取れるかどうか、ケアマネジメントにおいて重要なポイントだった。
 因みに、立山麻里と待兼山子の物語は悲劇的なものとなるが、それは後日の話となる。


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とまりぎセキュアベース・天の川進
色々とぎすぎすすることが多い今日この頃。少しでもほっこりできる心の安全基地になればと思っています。