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【ギフトシネマ会員インタビューvol.1】宮沢 宏さま

途上国の子ども達に映画を届けるNPO法人World Theater Project(以下、WTP)は、団体発足以来、多くの方々に支えられ活動を続けてまいりました。
どのような方達がどのような想いで支えてくださっているのか。 活動を支えてくださる大きな存在である「ギフトシネマ会員」の皆さまに、お話を伺っていければと思います。
第一回目のゲストは、宮沢 宏(みやざわ・ひろし)さん。 1944年、終戦の一年前に誕生した宮沢さん。ギフトシネマ会員の中では最年長。
宮沢さんとWTPとの出会いは、弊団体の1周年イベントの会場にて。以来今日までずっと、ご支援を続けてくださっています。

(聞き手:教来石小織、取材日:2023年6月21日)

カンボジアの子ども達と
自分の子ども時代の姿が重なった

―宮沢さんは、WTPにご支援くださる前から、カンボジアの子ども達を支援されていましたよね。きっかけは何だったのでしょう?

私が横河電機を定年退職する少し前、会社の先輩たちが、カンボジアのコンポントム州に小学校の校舎を寄贈しました。完成した小学校を現地に見に行くツアー(後の‘’横河オークン会‘’主催のツアー)というのがあり、ずっと気になっていたのですが、まだ会社員で長い休みも取れないからと我慢していたのです。

横河電機社員時代の宮沢宏さん

2005年に定年退職し、2006年に念願叶って横河オークン会のツアーに参加することができました。

子ども時代にカンボジアのシハヌーク殿下が来日した時から、カンボジアという国に興味を持ち、いつか行ってみたいと思っていました。特に見たかったのはアンコールワットです。

でも実際に行ってみたら、私の心を捉えたのは、アンコールワットではなく小学校の子ども達でした。自分の子ども時代を思い出したのです。

―以来、毎年カンボジアの小学校へ行ってらっしゃるのですね。
そうですね。毎年なので、14回行ったことになります。

―14年の間、カンボジアの変化を肌で感じられたのではないでしょうか。
初めて行った年、観光地には物売りの子ども達が多勢いました。皆「ワンダラー、ワンダラー(1ドルちょうだい)」と言って寄ってくるのです。ツアーガイドの方からは、「むやみにお金を与えると良くないから無視してください」と言われていました。

シェムリアップにある史跡の一つ、象のテラスに行った時、女の子が一人でポツンとしていました。絵になるなと思い、女の子に写真を撮っていいか聞きました。写真を撮らせてもらったので、ガイドさんに御礼をしたいと相談したら、「リエル札があったらあげてください」とのこと。日本円にすると20円くらいのリエル札があったのであげると、女の子が追いかけてきて、そのリエル札を付き返すのです。

そして指を一本立てて、「ワンダラー、ワンダラー」と。20円では少なすぎたのですね。ああこれは無視しなくてはいけないものだと無視したのですが、その晩は寝付けませんでした。

お金を持って帰れなくて、今頃あの子はお父さんに折檻されているんじゃないかとか。1ドルぽっちあげればよかったじゃないかと後悔しました。

―わかります。こうした状況への正解というのは何だろうと私も良く考えます。
カンボジアに通い続けるうちに、そうした子ども達は少なくなったように感じます。コンポントム州の小学校に通う子ども達も、裸足だった子ども達が靴を履いてくるようになったり、自転車で通うようになったり。土だった道が舗装されたり。少しずつですが、生活が豊かになっていくのを感じました。

成長していく子ども達


―小学生だった女の子が、学校の先生になられたのも見届けられたのですよね。
そうそう。通い始めた最初の頃に仲良くなった当時小学3年生の女の子がいたのですが、約10年後の訪問時に、あの子にそっくりな子がいたのです。話しかけたらあの子の妹だと。お姉ちゃんどうしてるかと聞いたら、小学校の先生になっているとのことでした。

カンボジアの皆さんはFacebookをしているので、彼女を探してみて友達になりました。覚えていてくれたので嬉しかったです。今度また小学校に行くよと言ったら、その日に会いにきてくれたのです。

「この母校の先生になればいいのに」と言ったら、翌年には母校の先生に。

私の知る限り、コンポントムの学校からは、5名が先生になっていて、そのうち3名が母校で働いています。カンボジアへの訪問を続けていたおかげで、子ども達の成長が見れたことはとても嬉しいことでした。

横河オークン会の皆様とカンボジアの小学校の先生達
前から二列目、白いシャツの男性が宮沢さん
前列左から二人目と右端の女性はこの小学校の卒業生

きっかけは紙芝居


―成長を追えるというのはとても良いですね。そんな中、WTPの活動はどのようにして知ってくださったのでしょう?

小学校を訪問した時、一度紙芝居をやったことがあるのです。私たちが日本語で読んだのをガイドさんが通訳してくれる形で。
子ども達は喜んでくれたのですが、紙芝居が小さいので、後ろの方の子は見えにくい。私は教室の後ろから見ていたのですが、後ろの席の女の子は見えないからと、机の上に正座してみていたんです。足が痛いのか、足の裏がむにゅむにゅと動いていて可哀想だなと。

あぁ、紙芝居より大きい映画をみせたらいいんじゃないかと思ったのです。

私が子どもの時、学校の校庭で映画会をやっていたのですが、鞍馬天狗だったかな。スクリーンは風でゆらゆら揺れたりもするのですが、子ども達はとても喜んでいて。鞍馬天狗が狙われると、みんな夢中で「後ろ!後ろ!」と叫んでいたのを覚えています。

カンボジアの子ども達に映画上映できないか調べていたところ、CATiC(キャティック。Create A Theater in Cambodiaの略。WTPの前身)のことを知りました。

「これだ!」と思い、あわよくば私たちの小学校にも来てほしいなと思い、CATiCが1周年イベントを開催する時に足を運びました。

―その時初めて宮沢さんにお会いしたのでしたね。その後は宮沢さんご自身が子ども達に映画を届けてくださる映画配達人にもなってくださいました。

当時CATiCはシェムリアップを中心に移動映画館をしていたので、車で4時間かかるコンポントム州までは難しいだろうと。なので私が上映するので機材と映画作品を貸していただけないかと聞いたら、二つ返事でOKしてもらえました。

最初は『ハルのふえ』を上映。子ども達はすごく喜んでくれました。バイヨン中学校でも上映したのですが、主人公とお母さんが別れるシーンでは泣いている子もいましたね。

「画面を食い入るように見つめる瞳に感動しました」と宮沢さん

カンボジアの小学校では図工の時間がないのですが、お絵描きをしてもらえたらいいなと思い、日本の小学校でカンボジアの話をしてクレヨンを募集したら、7キロ分くらい集まったことがありました。

それ以来、行くたびにお絵描きをしてもらって自由に絵を描いてもらっているのですが、その中にタヌキの絵がありました。あれはもしかしたらハルだったんじゃないかな(笑)。

頑張れば夢が叶うことがわかりました


―ハルを描いていてくれていたなら嬉しいですね。その次はサッカー映画の『劇場版 ゆうとくんがいく』を上映してくださいましたね。

せっかくお借りできた機材なので、カフェMoiMoiの小出陽子さんのご紹介でバイヨン中学校で上映させて頂きました。
 
その学校にサッカー部があったこともあり、ものすごく盛り上がって観てくれました。今でも覚えています。映画が終わった後の感想で、男の子が手を挙げて、「頑張れば夢が叶うことがわかりました」と言ってくれんたんです。

映画を観る子ども達。写真手前は村長さん

後日談ですが、小出陽子さんからご連絡をいただいたのです。そしたらなんと、あの子達のサッカーチームがシェムリアップのサッカー大会で優勝したんだそうです。映画がどのくらいの役に立ったかはわかりませんが、嬉しいニュースでした。

―それはとても嬉しいニュースです! ところで宮沢さんは、長年のカンボジア支援や弊団体への支援を継続してくださっています。
何事も継続するのは難しいことですが、なぜ継続できるのでしょう?

一つはWTPが大好きだからですね(笑)。あとは、定年して以来、年金生活者ではありますが、健康のためにシルバー人材センターに登録しているんです。学童の仕事だったり、交通整理だったり色々やってきました。

今は近所の小学校の警備員をやっています。朝一番に学校に行って、門を開けて、子ども達がやってくる時間になると玄関に迎えに行く。そこでの子ども達との会話が楽しいんです。一度家に帰って、学校が終わるとまた門を閉めに戻るのですが、帰っていく子ども達との会話も楽しい。

楽しみながら、身体を壊さないように働いて、そのお金で支援を継続できています。

―ありがとうございます(泣)。最後に、今の宮沢さんの夢は何でしょう?

横河オークン会でカンボジアに行ったのは2020年が最後です。コロナもあったけれど、横河オークン会はメンバーが皆高齢なのです。私は79才だし、先輩は82才。個人的には家の建て替えにお金がかかったりもして、様々な事情で2020年が最後のカンボジアかなと思います。

でもそうですね。夢と聞かれたら……。もう一度だけ、カンボジアに行って子ども達に会うことが、今の私の夢です。


HIROSHI MIYAZAWA
横河電機にて製造や品質保証の仕事に従事。
日本中を飛び回る。奥様とは社内結婚。
今では二人の孫も成人に。
初めて自分のお金で観た映画は、
ディズニーの記録映画第一作『砂漠は生きている』。



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