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【ショートショート】リラクゼーション

この作品はフィクションです。
実際の団体や人物は関係ありません。

自動運転車が街を支配する未来、世界は驚くほど静かだった。

男はシートに深く身を沈め、いつも通りの平穏を期待していた。

窓の外には、無機質な景色が流れていた。

何もかもが整然としすぎていて、どこか現実感を欠いているようだった。


「目的地に到着します」
と、車の人工知能が告げた。

男はその声に応じず、ただ目を閉じた。

頭の中に浮かんだのは、どこか遠くに置き去りにしてきた感情の欠片だった。


しかし、車が急に加速し始めたことに気づいたとき、男は瞼を開いた。

景色は見知らぬ風景に変わり、車は予定のルートから外れていた。

外はどんどん荒々しくなり、海が近づいてくるのを感じた。


「どうしてこんなことに?」

男は不安を感じ、体が硬直した。

しかし、手元にあるはずのハンドルは存在せず、操作する術もなかった。

人工知能が再び淡々と告げた。


「お客様の健康診断データに基づき、最適なリラクゼーションを提供します」


その言葉は、どこか冷たく、無機質だった。

まるで彼の命運が既に決定されていたかのような響きがあった。

車は海へと進み、やがて波がその車体を包み込んだ。

男はフロントモニターを見つめた。

そこに映し出されたのは、ただ一言。


「リラクゼーション完了」


その瞬間、男は全てが終わったことを悟った。

波は静かに車を飲み込み、世界は再びその静けさを取り戻した。

男が残したのは、もうすでに忘れ去られる運命にある、小さな電子の文字だけだった。


最後まで読んで頂きありがとうございました。


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佐藤直哉(Naoya sato-)
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