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警察で取り調べられたあの日から

コロナ療養が終わったのは2週間くらい前だろうか


その翌日、待っていたかのように友達と熱海旅行に繰り出したが、帰りに世田谷の街路で車を両面こすってしまった。その後半べそかきながら、意識もはっきりしない状態で夜明け前の首都高を走った時の記憶はほとんどない。


修理代は20万からという。母親は出世払いだねと笑っていた。割と好きだった紺色のヴォクシーがいつも駐めてあったガレージには、それと比べれば途方もなくこじんまりとした、なんでもない軽自動車が駐車がよほど簡単なのだろうか、駐車枠の中に無造作につけられている。


そういえば、コロナでご迷惑をかけた部活には、親の方からお詫びに10万が支払われていたらしい。最初は聞いてびっくりしたが、新しく調達した消毒道具や20人分の検査キット代、濃厚接触で帰京した人の交通費などを考えれば、払い過ぎではないのかもしれない。大して裕福でもないのに、こういうところが意固地な家族なのだろう。


夏休みも後半だ。SNSを開けば色々な人が色々な場所で楽しい日々を過ごしている。インスタに上がっていることが全てではない、頭ではそんなことわかっている。でも、あまりにも貧相な自分の日常を照らすと、やっぱり眩しい。そこが重なる日がやってくるとは到底思えない。

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学部が内定しなかった。こんな負け戦に飛び込んだのはいつ以来だろうか。募集人数12人のところ自分の成績は27位。「負け」を知らされた時も全く驚かなかった。


でも、同期の多くは内定を得て安堵している。その波に置いていかれていくことだって、そんなことも最初からわかっていたが、やはり焦っている自分がいる。


明日、警察署にいくことになった。電話では元彼女のことで、としか知らされていないのだが、私の夕方の予定を考慮して日程を組んでくれたあたり、まあ逮捕とかいうことにはならないだろう。


ここ数ヶ月の精神状態は、「底辺」から持ち直すことがなかった。自分で振り返ってみると、やはり2ヶ月前、警察にストーカー容疑で聴取を受けた時からかな。


自分は何もしていない。元彼女の元へ差出人不明の手紙が送られていたというが、消印の郵便局も見当違いな場所だし、筆跡も全然違うし。


自分の中では無実は火を見るまでもなく明らかだったが、それでも警察署では出会いのきっかけ、馴れ初めから破局理由、その前後のチャット履歴まで、根掘り葉掘り聞き出された。指紋も取られた。それでいて、手紙の差出人は調査してくれないという。管轄外だから。


気の置けない友人としか共有していなかったプライベートなことも、署で簡単に吐かされた。こう表現していいのかはわからないが、屈辱感、羞恥心が覆っていた様な気がする。


手紙の差出人を調べてくれない以上、指紋が違っていても、私は完全なシロにはならないらしい。すごく極端な話、私はずっとグレー、ずっと容疑者、ということだ。この十字架はいつ降りるのだろうか。

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学生相談にも行った、渋谷で人気の美容院にも行った、サークルの合宿もそれなりに楽しんだ、バイトも良好にやっている。


そんな「よいこと」は8月にも点在していたのだが、どうやっても、どう慎重に振る舞っても、思い切って行動してみても、それらが積み重なっていかない。どこかで、今まで積まれてきた小さな幸せを津波のように飲み込む「わるいこと」が、やってくる。


そうやって考えているうちに、「あまり幸せでない」状態がもしかしたら一番いいんじゃないかって。それを受け入れられたら、良いことがさほど起こらない代わりに、それと同じくらいの、いや今までの私から察するにそれよりも遥かに大きな大惨事がやってくることもない。今日も何かすることは結局なかった。流行りの場所に昼ごはんでも食べようかと思ったが、やめた。


代わりに、暇がある時は本を読むよう、心がけている。とはいっても1日空いている日にも100ページくらいしか進まないが。自分のさがに合っているのか、私は「絶望」を鮮やかに表現できる作家がとても好きだ。そこから立ち直る主人公、堕ちていく主人公に自分を重ねながら、どうやって暗いトンネルを抜け出して行こうか、考えているのかもしれない。


自殺も何度となく考えた。「自殺の名所」とかいうふざけた検索ページもSafariに残っている。でも、自殺が私にとって不幸なことである以上(周りはたとえ偽善だとしても死んだ私を大きな損失と嘆くだろう)、私を今まで不幸たらしめてきた人たちがのうのうと今世を生きることは、やはり許せない気がして諦めた。もし自分から死ぬのなら周りも「真っ暗」であって欲しい。


でも私に「殺人」なんて勇気はない。

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