名前を覚えている店員〜びっくりするよ〜
新人時代の不思議な話。私が初めて担当としてお客様から受注した案件があった。見積書でケーブルの敷設長が20mくらいなのに購入する箱の長さで200mと書いていたらメチャクチャ怒られた。
これ上司チェックしてなかったよな?でもお客様は自社の元社長の会社だったので半分身内の感じで指導していただいていた。
見積が通って受注出来たので準備しなきゃという時に大泉先輩(仮名)がめでたいから祝ってあげようと言ってくれた。後にとんでもない案件一緒にやって地獄を見る先輩だ。あとは総務のお姉さんルミちゃん(仮名)やアツム君(仮名)も気の合う仲間で一緒に行くことになった。ここでは私はショーちゃんとする。
店は特に決めていなくて歩きながらあのお店また行きたいなと盛り上がる。料理がおいしくてお店の感じが良くて特別な日にぴったりだそうだ。
そんないいお店の割にしばらく行ってないらしく、ニュアンスで2〜3年かもっと行ってない感じ。
空いてるといいななんて言いながら扉を空けると陽気な人懐っこい雰囲気の店員さんが迎えてくれた。
「あーお久しぶり大泉さん!ルミちゃんアツム君も!」
全員がえ!?と思いながら席に付く。みんなでざわついている。前来たの何年前だっけ?なんで皆の名前…と不思議がっているとメニューを持って来られた。
「大泉さんお酒は何にしましょう?ハイ、ルミちゃんもメニューどうぞ!あ、そちらは初めてですね」
「あー…ウチの新人で初受注のお祝いで来たんですよ」
「わーおめでとうごさいます!当店を選んでいただき光栄です!ねーアツム君!」
「ちょっといいですか!何でみんなの名前知ってるんですか!」
「大事なお客様ですから!ウフフ」
一旦店員さん引き上げる。もうちょっとホラーな感じでお酒選んでいる場合じゃない!
「どういう事ですか?久しぶりなんですよね?」
「そうなんだショーちゃん。しかも前に来たのも一回だけだし予約もしてないし名刺を置いていってもいない」
「入店した時に名前呼んでるのを聞かれたとか」
「ショーちゃんそれはないよ。扉開けてすぐ大泉さん!だったぞ」
オーダーを取りにまた来られた。
「全員生で」
「あ、すいません私明日があるので今日はウーロン茶で」
「かしこまりました。3名様が生ビールでショーちゃんがウーロン茶ですね」
「(全員)えーー!!」
これはこわいぞ。
「さっきウチの新人ですって言ったけどショーちゃんとは言ってなかったはずだぞ」
「間違いないです。なんで?なんで?」
もうこうなるとお祝いなんてムードじゃない。トリックがあるなら知りたくてしょうがない。
お酒を持ってこられても料理のオーダーをしても料理を運ばれてもみんな名前で呼ばれる。
それで良く観察してみたらなんとなく分かって来た。ウェイターのお仕事をしつつお客さんのテーブルの近くに居て会話を聞いてるっぽいのだ。お客さんが店員さんに名前を自己紹介するタイミングって無いから。
だからみんなが呼んでいる名前で憶えている。大泉さんが私をショーちゃんと呼んだのを聞いてあの新しく来た子はショーちゃんなんだと。
それで皆お酒が入ってくるともう本人に興味津々で聞いちゃってる。
「前に来たのかなり前ですよ?何で憶えてるの?」
「大泉さんのこと忘れるわけ無いじゃないですか。ずっとお待ちしておりました。確か2年前の6月でしたね」
「そうだ!なんで?」
その日の結論はこんな感じ。最初に名前を憶えるのはお客さんが会話をしてるのを聞いて得る。問題はそれをどうやって何年も残しているか。
「裏にノートが置いてあって何年何月何日5番テーブル大泉さんルミちゃんアツム君とかノートに書いてる?」
「いやいや名前だけ書いてあっても顔が分からないと」
「似顔絵も添えてるとか?」
「ウェイターしながら似顔絵描くヒマないよな?」
一人しらふだった私はこの会話も彼に聞かれてるよって思った。
結局行き着いた答えはすごくお客様のことを大事に思う天職のウェイターさんで一回でも来たお客さんのことは忘れない人なんだ。と言うしかなかった。
その後またその店に行くこともなく、転職し新人時代とは違う生活をしていた数年後。テレビを見ていた。
少年を高いビルに連れて行って東京の景色を短い時間見させる。部屋の中に移動して紙とペンを渡すとさっき見た景色を完璧に絵にする!
それを見て思った。というか腑に落ちた。あのときのウェイターさんこれだって。
サヴァン症候群と言うらしい。あることに対してものすごい記憶力がある反面普通の人とは違う独特の感じもある。絵を描く少年とウェイターさんがピッタリ合致した。
当時お店で皆が行き着いた結論、天職のウェイターさんというのは本当だ。
名前というのは皆大事なもので、憶えてもらえる、呼んでもらえるのは嬉しい。遊園地でもあるよね?乗り物に乗るとゴール付近でキャラクターが名前呼んでくれるの。
初めて仕事受けたらびっくりした話でした。