『山姥が見たかった希望』ちいかわ考察
今回の考察は、前回の記事『マロングラッセ編を解き明かす』の続編である。こちらを先に読んでいただければ、より理解が深いものとなるだろう。
老婆の正体
結論から言うと、老婆はちいかわ達を狙う山姥であった。"なんとかバニア編"に登場した魔女と酷似していることもあり、おそらくはこの山姥も、ちいかわ達の身体を奪い、そして"こういうふうになりたいやつ"に売却することで生計を立てている者なのだろう。うさぎの機転がなければ、ちいかわ達は全滅していた。
毒キノコ
いち早く危険を察知したうさぎが、朝食に忍ばせた毒キノコによって山姥は倒された。以前からうさぎはいくつものキノコを発見してきた。草むしり検定3級取得者としてのスキルを活かして、山姥を倒せるだけの毒性を持ったキノコを採ってきたのである。
毒キノコを投入した直後、うさぎは一時的に眠ってしまっている。単に明け方で眠たかっただけとも考えられるが、それは他の全員同じ条件である。ここから推測するに、うさぎはキノコの毒性を自身で確かめたのではないだろうか。草むしり検定3級ともなれば、毒キノコの致死量、処理方法などは把握できていそうなものである。知識のあるうさぎだからこそ、全員が口にする味噌汁に毒キノコを投入し、本体を食べた山姥にのみ効果が出るように計算できたのである。
山姥の意図
こうして山姥のちいかわ族捕獲計画は失敗に終わったわけだが、これには若干の違和感が残る。
まず一つに、ちいかわ達がマロングラッセの森に仕掛けた罠にかかった時点では、ちいかわ達を襲わなかった点である。身動きのとれない状態である方が身体を奪いやすいことは明白であるにもかかわらず、わざわざ自宅へ招き入れて食事まで摂らせた。これはおそらく、山姥の発言"嬉しそうな顔が見たかった"に偽りはなく、その真意は"嬉しそうな顔を見て品定めしたい"ということにはならないだろうか。
例えばモモンガのような存在(でかつよ)が、ちいかわ達のような可愛らしい身体を欲するとき、山姥はそれ相応に可愛らしい個体を確保する必要がある。罠にかかった時点では判断しかねる諸要素を、自宅でじっくりと見定めたかったのではないだろうか。
『ちいかわ』の裏社会
この世界において、山姥をはじめとする日陰者たちの生業が横行してしまっているのはなぜなのか。
以前ラッコの過去について考察した際に、かつてちいかわ族と人間との間に激しい衝突があったという仮説を立てた。
この仮説とその結末が正しければ、山姥たちは見捨てられたでかつよ達に寄り添うかたちでビジネスを展開していることになる。
何らかの要因により、この世界の生物は身体と魂との結びつきが緩いように見える。だからこそ鎧さん達は鎧を脱がず、生身のちいかわ達は身体を奪われたり入れ替えられたりしてしまう。現状ではでかつよ化してしまった者が元に戻るにはそれのみが希望である。
可愛いは正義
「なんかちいさくてかわいいやつ」こと『ちいかわ』を読む者の多くからすれば、可愛い=正義であり、でかつよや擬態型等の怪異は悪とされてしまう。"なりたいやつがいる"のは至極当然のことと言える。
今回の山姥にしてみても、それを悪業と言い切ることはできないはずである。ちいかわ達が見た光と、山姥が見た希望は、この世界においては対極にある。双方が完全に救われる日は訪れるのだろうか。