⑬志水宏吉著『学力格差を克服する』
ちくま新書、2020年刊。
学力の差を縮めるのではなく、学力の低い層を引き上げる「学力保障」を掲げる教育社会学者の著作。 その考え方、研究成果には説得力がある。
それぞれの子どもを一本の木に見立てる「学力の樹」の発想はとても共感できるものだ。葉は子どもが学び取る知識、幹は子ども自身の思考力や判断力、根はそれらを支える意欲・関心・態度。知識(葉っぱ)一つ一つは取るに足らないものだが、それが総体となって人間の成長を助ける。 素晴らしいメタファーだと思える。
同和教育から出てきた「学力保障」の考え方も素晴らしい。「格差の克服」という言葉には、下のものと上のものの差をなくす事であり、著者が目指していることの実態を表せていない、と志水さんは言う。 下のものの成長を促し、底上げし、ある水準まで引き上げるというのが「学力保障」の考え方で、公教育というものは、そうであるべきだろうと思う。 海外ルーツの子どもの増加もあり、「学力保障」は今でも推進すべき事だろう。
素晴らしい教育理念だと思う反面、学校教育を主舞台としているだけに、ある種限界も感じずにはいられない。
1. 学校での集団指導の限界 ・・・ 集団指導の有効性を強調されているが、そうであれば「不登校」は学校に戻す事が前提となり、学校やクラスになじめない子はなじめるように努力することが求められるだろう。 そのことは必ず摩擦を生みだす。
2. 教師の負担・・・本の中でも言及があるが、教師の数を増やすなどの施策を伴わないと、若い先生には耐えきれないだろう。
3. 学校で学ぶ内容については言及がなく、学習内容がどれほど子どもの負担、ひいては教師の負担になっているか?という視点に欠けている様に思う。
何はともあれ、読んでよかった、と思える読書体験でした。
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