エッセイ#51『東京から』
先日、三重県へ旅行をしてきた。
東海と関西の両方に属する三重県では各地のCMやテレビ番組が流れており、さらに伊勢神宮は観光客や修学旅行生で溢れ返っていたため、「これぞ旅行!」という感じで楽しい2日間だった。
そんな中、地元のおじさんと世間話をする機会が訪れた。「どこから来たの?」と聞かれると、私は咄嗟に「あ、東京です。」と答えてしまった。私の自宅は千葉県にあり、言わずもがな東京のいかなる市区町村にも属していない。
しかし、これは決して見栄を張ったわけではないのだ。もちろん東京と言った方が聞こえは良いが、変に「千葉県です!」とか「千葉の〇〇市っていう所です!」と言うよりも、その後の会話に繫げやすだろうと考え、そう答えたのだ。
ただ、嘘をついてしまった感があるので、その旅行中は「小モヤモヤ」が残り続けていた。仮に東京駅から新幹線に乗っていたらまだ良かったのだが、私が利用したのは品川駅であった。品川から来ました、と言っても微妙な空気になることはわかりきっていたので、とりあえず東京と言ってしまったのだ。
そもそも私が言った「東京」と、おじさんが思っていた「東京」が同じなのかもわからない。私は「東京都」のつもりだったが、おじさんからしてみてば「東京」といえば「東京都心」のことであり、奥多摩や伊豆諸島、小笠原諸島は含んでいないのかもしれない。
その後おじさんは、「俺は東京行ったらさぁ、どこ観光して良いかわかんねえんだよ~。」と言っており、参考までにお気に入りのスポットを紹介しようと思ったが、このおじさんの趣味嗜好がわからないので、余計な提案はやめておいた。彼の中での「東京」は渋谷や新宿であり、決して「たばこと塩の博物館」とか「アドミュージアム東京」とか「等々力渓谷」ではないのだろう。
観光地があり過ぎるのも考えものである。