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#16『架空の日常』
『千葉県立海中高校』という小説を読んだ。『浜村渚の計算ノート』シリーズや『むかしむかしあるところに、死体がありました。』シリーズでお馴染みの、青柳碧人氏の作品である。ネット上でこのタイトルを目にした時に、千葉県民として読まざるを得ない!と思ったのだが、調べた限り新品は出回っておらず、文庫化されたものは改題され『東京湾 海中高校』となっているらしい。どうせなら「千葉県」と付いていた方が良いので、私は長らく状態の良い中古を探し求めていた。そして今月、やっとの思いでゲットしたのだ。
東京湾の海底に作られた架空の街「海中市」を舞台としたこの作品には、海中市の常識がいくつか登場する。海中に特化した乗り物があったり、海中ならではのペットがいたり、学校指定のダイビングスーツがあったり、などなど。
そんな「ありがちなフィクション」の中に、度肝を抜かれた場面が1つある。海中市民は「折り畳み傘」を持たない、という描写だ。海中に町があるから雨が降らない、つまり傘自体が必要なく、急な雨に備えて折り畳み傘を持ち歩く必要もないのだ。作者はなぜ、このような「存在しない世界のあるある」を思い付いたのだろう。海中用のバイク、海中用のペット、海中用の制服、の流れで来たら「海中用の傘」としてしまいそうなのに。
もしかすると青柳氏は海中市民だったのかもしれない。
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『東京湾 海中高校』(青柳碧人 , 講談社文庫 / 電子書籍)