事業承継を考えたら、売るのではなく、まずは買う事を考えるべき
先日お手伝いさせていただいた経営者は67歳。譲渡された後に「こんなに株価が安いのならば、もっと若いうちに企業を買う側に回っておくべきだった・・・」とおっしゃっておられていました。
私としては、全力は尽くしたものの、希望額を実現できず、悔しい結果となりました。
本日は、M&Aが非常に投資対効果の高い成長手段であることを記載したいと思い
ます。
※事例はご本人に了解を得た上で、特定されないよう情報を加工してお出ししています。
俺の会社の価値はこんなものか・・・
上記コメントをいただいた会社には現預金が約2億円、営業利益0、社長の役員報酬が2000万円と、実態利益がでているSES事業を営む都内の企業様でした。
仮に簿価上の利益が出ていなくとも、社長が関与しなくとも自立している組織であれば、役員報酬を一部実態利益に加算する事も可能です。
一般には、後任管理者の人件費を600〜800万円前後程度に設定し、差額を実態利益とする事が多いです。
そのため、こちらの企業様は実態利益で1000万円強は見積もることができました。また、SES事業はM&Aにおいては、人気業種です。都内のSES業といえば、買い手企業が、簡単に数十社手を挙げる世界です。
そのため、オーナー様は非常に強気でした。譲渡したご友人が、IPOと悩まれた末の大型M&Aを成立させた水準を頭にお持ちだった事が背景にあります。
一方、人気業者の企業であれど、昨今の買い手企業が異口同音に口にするのは、「いくらの評価ですか?」と、株価評価に対する探りです。人気業種でも「高値掴み」はめったにしません。
私の力不足もあり、最終的に本ご支援では3億円の株価でクロージングとなりました。400社アプローチしたものの、TOP面談に進んだ企業は7社。そこから実際に提携意向を表明した企業はわずか3社となりました。
あまりに高い株価希望+入札形式に、高値掴みを嫌厭して、入札参加する買い手が限定的でした。
売り手オーナーとしては、もっと価値がつくとお考えでしたので、私としては希望株価を実現できず、申し訳ない想いでお手伝いを終えたディールでした。
昨今の買い手企業の事情
ここ数年、会社を何件も買収するような会社には、投資銀行出身者、PEファンド出身者、プロ経営者経験があるCFOなど、「目利き」といわれる方が在籍するケースが非常に増えてきました。
前回の記事でお伝えしたような3点が全てそろっているような企業であれば、「目利き」の方は、高値で入札します。
一方、中小企業において、そのようなウルトラCの企業はめったにおらず、実態としては、私の父や祖父が営んでいたような、「割とどこにでもあるビジネス」に取り組んでい企業がほとんどではないかと思います。
となると、「目利き」の方は、共通して、年倍法であれば純資産+税引き後利益の3年分、もしくは、EV/EBITDA法であれば、ネットキャッシュ+EBITDAの3~4年分などと、提示してくるケースがほとんどです。
よほど頑張っても、「普通の中小企業」に、EBITDA5年分を超える評価をつけることはレアになってきました。
「踏み込める企業」にとっては、チャンス
こちらは、売り手側にとっては非常に残念な事であり、買い手企業にとっては、少しでも値入を頑張れば競合を出し抜いて買収できるチャンス、と言えます。
最近、増えてきたのは、絶妙に値入がうまい年齢60~70歳前後の老練創業社長の買い手です。
彼らは、最終的には自社も譲渡することを見据えながら、現在のM&Aの相場があまりに安く買収できていることを知っています。
また長年の経営経験から、経営者のタイプ、事業規模、顧客属性、強みなどを見抜き、許容できるリスクの幅を精緻に算出します。
先程申し上げような、サラリーマンの目利きとやや毛色が違います。私を含むサラリーマンは、圧倒的な強みの無い案件を、相場以上の値入れをする事を恐れます。
それが、投資額全体の数%前後の差であったとしても、慣れている分、相場を守る動きが働きます。あくまで「サラリーマンのプロ」として、相場の中で高掴みせずに良い案件を買収するノウハウをもっています。
そのため、創業社長の目利き+動物的な嗅覚にかなわないケースが多いと私は感じています。
動物的嗅覚をもった買い手社長は必ず、売り手オーナーが安心する定性的な条件+他社の札プラス500百万円~1000万円くらいの札を「ぴたり」といれるのです。
当然、仕切る立場としても、どこかに肩入れはせず、他の企業の入札条件は伝えていませんが、彼らは不思議とギリギリ勝てるフダを毎回入れます。
サラリーマンが目利きする相場が理解できているのでしょう。事実10回戦ったら9回勝つと言っていました。たまに中国資本のとてつもないフダが入ってくるがそれは相手にしない、とも。
しかしながら、これは圧倒的な勝率ではないかと思います。
何故老練な創業オーナー社長が入札に強いのか
利益の3年程度で買収できるのであれば、少しくらい営業権を多めにつけても、大したリスクにならないという、腹なのです。
創業より長年戦ってきた自社の業界であれば、勘所もわかるし、最悪自身が現場に入れば立て直せるという考えもあるでしょう。
こうしたロジックからか、オーナーが自らリスクを見極めて、ご同業をバンバン買収している企業は私の知る限り伸びています。5年程度で、売上を倍増させている企業も多数あります。
これは、一般に新規事業をやるよりもリスクを押さえて、ラクに事業を伸ばせるということにM&Aのメリットがあるように感じられます。
実際は、見るべきポイントがいくつかあり、それをきちんと押さえた企業が伸びていっているように思えます。買収の留意点については、私なりに言語化して後日整理してシェアいたします。
事業承継を考え始めたオーナーがまず検討すべきは売却<買収
少し話はそれましたが、簡単に申しあげると、圧倒的に強みがない企業は、安値で売るよりも、同業を買収して、5~10年後高値で売る、という戦略をおススメします。
理由は、
事業承継系案件であれば営業権を1~3年分で買収できる可能性がある
社長が肌感覚を持っている市場(同業)であれば、事業上のリスクは見通しがつくことが多い
銀行も、M&Aに対しては好意的に資金調達をサポートしてくれる
小規模の会社よりも、企業規模が大きい方が、高く売れやすい
買う側の気持ち、を知っておくことで、売るための準備ができる
というものです。
M&Aの相場は概ね決まっています。たとえばロレックスであったとしても、投資用不動産としても、概ねの価値の評価レンジがきまっていることと同様です。
そのため、「売るタイミング」になって焦って色々と手を打っても遅いのです。「売る5年前」からどれだけしっかりと準備できるかがポイントではないでしょうか。
買収については、数億円とまとまった単位での借り入れが必要になることがありますが、最近では銀行は買い手企業が知見をもっている業界の買収であれば好条件で貸し出してくれるケースも増えています。
銀行側も、買い手側の企業の体力・経営力はもちろん、投資対象の企業の実力も見ます。買い手企業が土地勘をもつ「同業」であり、投資規模も大きすぎなければスムーズに融資がおりるケースが多いといえます。
買収するとどんなメリットがあるのか
買い手の気持ちがわかることで、どんな企業であれば価値が付きやすいのか?が見えてきます。
逆の立場からみると、冷静に考えられるケースは多いのではないでしょうか。
いざ買い手の立場にたつと
・事業の成り立ち
・強み
・組織風土
・管理の仕組み
・人材の質
・顧客との関係
・支援や納品の質
などは隈なく見るでしょう。また、資料に現れていないような「トラブルの匂い」も見ていくと思います。
何かトラブルがある企業は、決算書になにかしらの兆候があるものです。実際に経営を何十年も行っているオーナー経営者の方はこうした嗅覚は非常に鋭いと私は思います。
一方、不思議なもので、「売り手」になると、立場は急変します。感情論が先立ち、冷静に見れなくなる方が多いのです。
どれだけ優秀な経営者の方だとしても、いざご自身の会社を売却する場合には、感情論が入ってしまうのは当たり前と言えるかもしれません。
そのため、直前で焦るのではなく、「買収側」として、実際に案件を検討することで、ご自身の企業経営、譲渡準備に活かしていただくことは非常に重要ではないかと私は考えます。
1+1=2?
不思議なもので買収すればするほど、自社の株価は上がります。一般論としては、事業規模が大きい方が、株価は上がるのです。
理由は、規模が大きくなればなるほど、事業の安全性があがるからです。また買い手からしても利益1万円の会社を100万社買収するよりも、利益100億円の会社を1社買収したほうが、手間も手数料も安く、望む成長を実現できます。
そのため収益性が同じ話でも、規模が大きい会社の方が一般に株価評価の評価倍率が高くなる傾向にあります。
また、買収後大きく利益を棄損することがなければ、毎年キャッシュフローは積みあがっていきますので、3~5年後には、Cashが大きく増えているということも期待できます。
※大きく利益が伸びることがなくとも、純資産やCashが増えれば、その分自然と株価は高まります。
インカムフローによる資産の積み上がりが期待できます。これは例えば、マンションなどを買って10年間人に貸して、値上がりせず同じお金で売った場合でも、ローンの金額が10年分減っている現象に似ているのでは無いかと思います。
そのため、一般論としては買収を重ねていくと、同時に自社のM&Aの売却価値も年々増加します。(もちろん、買収にはリスクも伴いますので、見極めと買収後の執行体制が重要となります)
まとめ
少し長くなってしまいましたが、整理すると
特別の強みが無く、事業承継において差し迫った状況でなければ、譲渡ではなく、まずは買収を検討すべき
同業への買収によって、リスクを見極めつつ、割安いに買収を進めるべき
買収は、件数を重ねることで、結果として自社の価値も高まる(しかし、慎重に案件の見極めは必要)
早く準備すればするほど、M&Aによるイグジットは有利に働く、という記事でした。
一方、こちらは経済合理性に偏ったお話しになりますので、実際に買収するについて熟考が必要です。
本日も最後までお付き合いいただきありがとうございました!