見出し画像

[ドラマレビュー] 『シェイムレス〜俺たちに恥はない』シーズン6:アメリカ世論を二分するといわれる中絶問題と真っ正面から向き合ったシーズン〜キリスト教的死生観〜(アメリカ 2016) (ネタバレなし)

今シーズンの『シェイムレス』は神と人間との関係がメインテーマとなっている。デビーの妊娠、フランクのビアンカへの未練、ケビン・ニックが犯した過ちなどを通し、キリスト教的視点からみた人間の運命と罪について描かれる。

あらすじ

デビーの妊娠が発覚し、ギャラガー家はまたも大騒ぎ。デビーは中絶を勧めるフィオナと対立し、家を出る。
ビアンカを失い傷心のフランクは救いを求めてあちこち放浪、やがてガン患者支援員を始める。

病に苦しむイアンはフィオナの過干渉に嫌気がさして反発、仕事をやめる。
リップは大学でやっと本気になれる人を見つけるが、元カノに復讐されて関係はめちゃくちゃに。
一方、少年院でつとめあげたカールはいく当てのない友人ニックを連れて帰るが、彼が大事件を起こし・・・。

登場人物

フランク・ギャラガー(ウィリアム・メイシー):父。アルコール中毒で無職。
フィオナ・ギャラガー(エミー・ロッサム):長女。ギャラガー家の大黒柱。共依存症の世話焼き。
近所のダイナー『パッツィーズ・パイ』で働いている。
フィリップ・ギャラガー(ジェレミー・ホワイト):長男。通称リップ。秀才の大学生。ロボット工学を専攻。
イアン・ギャラガー(キャメロン・モナハン):次男。ゲイ。躁うつ病。
カール・ギャラガー(イーサン・カトスキー):三男。ギャング。少年院あがり。
デビー・ギャラガー(エマ・ケニー):次女。父曰く、「天使みたいな子」。反抗期。
リアム・ギャラガー(ブレンドン・シムズ):四男。みんなのアイドル。
モニカ・ギャラガー(クロエ・ウェブ):母。躁うつ病。
サミ:フランクの隠し子。実は長女。サイコパス。
チャッキー:サミの子供。知的障がいがある。
クイーニー:サミの母親。
パトリック:フランクのいとこ。

ベロニカ:仲のいいご近所さん。元看護師。
ケビン :ベロニカの彼氏。フランクの行きつけのバー、『アリバイ』の店主。
ジェマ、エイミー:ベロニカとケビンの双子の子供
トミー:『アリバイ』の常連。
ヤニス:ベロニカとケビンの家の近所に住んでいる。
リサ&リサ:近所に越してきたリッチなレズビアンカップル。

ミッキー・ミルコヴィッチ(ノエル・フィッシャー):近所の不良。イアンの彼氏。
スベトラーナ:ミッキーの妻。ロシア人の娼婦。『アリバイ』で働いている。
強い美人ママ。商売上手。
エフゲニー:スベトラーナと(おそらくは)ミッキーの子供。
マンディ・ミルコビッチ:ミッキーの妹。

へリーン:大学の教授。リップと不倫。
ディラン:へリーンの息子。
セオ:へリーンの夫。
ユーエン:大学の教授。ロボット工学の天才。
アマンダ:リップの元カノ。

デレク:デビーの彼氏。
ショーン:『パッツィーズ・パイ』の店主。フィオナの彼氏。元ヘロイン依存症患者。
ウィル:ショーンの子供。
メリンダ:『パッツィーズ・パイ』の店員。お局さん。
ニック:カールの友人。少年院あがり。
ドミニク:カールの想い人。
ケイレブ:消防士。

ビアンカ:フランクが最期を共にした女性。元医師。故人。

スタッフ

原作 ポール・アボット
監督 ジョン・ウェルズ
脚本 ジョン・ウェルズ、ナンシー・ピメンタル、エイタン・フランクル、シーラ・キャラハン、デイビー・ホームズ、クリスタ・バーノフ

中絶を巡って対立するフィオナとデビー

デビーの妊娠から、今シーズンのメインテーマが人工妊娠中絶であることは誰の目にも明らかだろう。
自らの意思で妊娠し、どうしても産みたいデビーは、反対するフィオナと対立する。フィオナは、まだ15歳のデビーが今子供を産めば人生を棒に振ることになると強く主張し、出産はサポートしないと断言する。

しかしデビーも折れずに家を追い出されることを覚悟の上で産む決断をする。
中絶反対のフランクはデビーのサポートに回り、珍しくあれこれ世話を焼く一方、同時期に妊娠した子を堕ろしたフィオナには冷たく当たる。
アメリカの世論を二分するといわれる中絶是が非か問題を真っ正面から取り上げた内容となっている。

キリスト教圏で中絶タブーが根強いワケ
●日本と欧米の中絶に対するスタンスの違い

古来から、日本には大きな中絶タブーがなかった。それは、「7歳までは神の子」という言い回しからもわかるように、胎児、嬰児、幼児を人間とみなさなかったからである。
宗教は不干渉の立場を取り、口を出さなかった。

そのため、江戸時代には人口制限のために堕胎、間引きが横行していた。
堕胎罪ができたのは政府が西洋文化、すなわちキリスト教的思想を取り入れ、法整備をした明治であり、それまで日本では中絶は罪ではなかった。
ゆえに、現代においても堕胎罪とは名ばかりであり、実質的には母体保護法で中絶は合法となっている。

これに対してキリスト教圏の欧米諸国では中絶は重い罪と見なされてきた歴史がある。それは、中絶が十戒で禁じられている殺人にあたるからだ。

厳格なプロテスタント(保守派福音主義など) とカトリック教徒は、受精した瞬間から胎児を人間として見なす。そのため、中絶は殺人であり、罪である。
神のみに許された人間の生死の決定を人間が下すことは人間が神の領域を侵犯することであり、罪となるのだ。
だから、つい最近まで中絶が違法だったカトリックの国アイルランドでは年間数千人がイギリスに渡り中絶手術を受けていた。

このように、欧米と日本とでは中絶に対するスタンスが違う。
キリスト教の普及に伴い中絶が罰されるようになり、その後フェミニストたちが権利を勝ちとってきた欧米と、そもそも中絶をタブー視していなかったが近代以降違法となった日本。
こういう歴史の違いから、海外のドラマでなぜ中絶について語られることが少ないか、語られたとしても結局は産むことになるのか、ピンとこない人も多いだろう。

デビーやフランクが中絶したフィオナに冷たい目を向けるのも、フランクの「モニカが妊娠したときは中絶しないよう薬漬けにした」というセリフも、実はこのキリスト教的宗教規範からきているのだ。

●ピューリタンの国、アメリカでも中絶反対派が多い

物語の舞台、アメリカでは、日本人が思う以上に中絶タブーがある。それは、そもそも現代アメリカの基礎を作った入植者たちがイギリスで迫害されたピューリタンだったからだ。
英国国教会の堕落と腐敗を憂いた彼らは、聖書原典主義を信条として新天地で理想の国を作ろうとした。
そのために、清貧思想・勤勉主義の神権政治を以て開拓村を統治した。

その後宗派は枝分かれしたものの、今日のアメリカのプロテスタント系キリスト教の源流はここにある。そのため、他のクリスチャンの国よりも聖書主義の思想が強く、保守派の福音主義、より過激な形ではキリスト教原理主義などもここから派生した。(宗教右派)
この宗教右派は強い政治基盤を持っており、父ブッシュ、レーガンを当選させたのも彼らだった。

厳格な聖書主義の宗教右派は、中絶反対派であり、プロライフとも呼ばれる。彼らは各地で中絶反対運動を行っており、特に南部や中西部では中絶に厳しい州が多い。
物語の舞台、シカゴは中西部の主要都市であり、しかもギャラガー家はアイルランド系である。フランクとデビーがあれほど強硬に中絶に反対したのも道理なのだ。

ライターたちは人間の運命をどのように捉えているか
●人間の生死、運命を決めるのは神

今シーズンのエピソード1は墓場から始まった。そして、シーズン全編通してデビーの妊娠・出産が取り上げられた。それは、今回のテーマが「生と死と運命」だということを示している。

これにあたって、感じたのはライターたちの死生観がキリスト教的だということだ。それは、ビアンカの死から象徴的にわかる。

●自分の命を救えなかった医師の象徴的意味

昨シーズン、命を落としたフランクの想い人、ビアンカは医師だった。すなわち、現代の科学技術・医療技術を用いて人間を救命するエキスパートである。
しかし、彼女はあっけなく死んだ。これは、人間の力の限界を象徴的に示している。

科学技術の発展によって、人間はどんな病も治せる、つまり生死をコントロールできると勘違いし、信仰心を失った。神を信じなくなったのだ。
しかし、実際には人間にそれほどの力はない。ひとの運命、特に生死を決定づけるのは神であり、フランクとビアンカの運命が紙一重であったように、人間にコントロールできるものではない。
アンダスンの短編『紙の玉』やホーソーンの『痣』にもみられるような宗教的テーマが、ビアンカの死が表現するものである。

まとめ 「神の目」の存在を感じるシーズン

さまざまなエピソードから、「人間の生命を司るのは神である。神はすべてを見ている」というようなメッセージが読み取れたシーズンだった。
デビーの妊娠出産、ビアンカの死を悼むフランク、など上で取り上げたトピックの他にも、罪の意識に苦しむケビン、嘘が暴かれるイアンなど、キリスト教的な罪について取り上げた話が多かったように思う。
来シーズンはリップの飲酒問題がテーマになりそうな予感である。

残念ながら2021年11月現在、シーズン7以降が見られる動画配信サービスは見当たらない。U-NEXTでの続編配信を待つしかないかもしれない。
どハマりしてしまったので是非観たいなあ・・・。

この骨太なファミリードラマがどう決着するのか見届けたい!(全11シーズン)

◆◆◆

こちらで視聴できます→U-NEXT見放題



いいなと思ったら応援しよう!