[映画レビュー]『ライフイットセルフ』:ある一族の家系図を辿るような心温まるヒューマンドラマ(アメリカ 2018) (ネタバレなし)
今回は大好きな俳優、オリヴィア・ワイルド出演作品をご紹介。
あらすじ
冴えない中年男、ウィルは精神病棟から退院したばかり。世の中は全部クソで、人の笑顔さえ癪に障る。それもすべては妻アビーのせいだ。
素晴らしい出会いをして運命の人だと確信したのにどこで間違ってしまったのか。すれ違いが続き、ついに別れを切り出されてしまった。
退院の交換条件で受けさせられているセラピーで過去と向き合うよう説得されるがウィルは受け入れられず・・・。
登場人物
●1章
ウィル(オスカー・アイザック):売れない脚本家
アビー(オリヴィア・ワイルド):ウィルの妻
アーウィン:ウィルの父
リンダ:ウィルの母
セラピスト
黒人の男性
●2章
ディラン:ヘビメタバンドの歌手
ディランの祖父
●3章
ハビエル:オリーブ園で働いている
イザベル:ハビエルの妻
サチオーネ:オリーブ園の農園主。金持ち
ロドリゴ:ハビエルとイザベルの息子。大学生。
シャリ:ロドリゴの彼女
●4章
エレーナ:作家
スタッフ
監督、脚本:ダン・フォーゲルマン
長編だけど冗長さゼロの一級品!
まずこの映画の面白いところは、4章構成のオムニバス形式になっているところである。
各章、登場人物が異なり、それぞれのストーリーが語られる。
そのため、2時間近い長さながら、観ていて飽きない。よく駄作にありがちな、無駄な間が多い、話が本線から逸れてダラダラと続く、というようなことがない。
そのため、はじめに映画の長さを見て、えっ、117分!? 観るのやめよ(・ω・) となるには惜しい作品なので今回取り上げた。
最初の3分で一級品だということがわかるはずだ。
小説技法「信頼できない語り手」を駆使した4章構成の映画:第1章 ウィル&アビー夫婦
第1章は、脚本家のウィルと妻アビーの物語。大学でアビーと素晴らしい出会いをしたウィルは、もう一生彼女以外を愛せないと確信する。
そしてプロポーズをし、子供を設けるが、どうやらウィルの愛は重すぎたようだった。
ある日アビーは別れたいと言い出す。それを受け止めきれなかったウィルは精神的に参ってしまい、一時入院することに。
やがて少し落ち着き、退院したウィルはセラピーに通い始める。すると、過去のことを色々と思い出しはじめ・・・。
第2章 ディラン
ディランの人生は生まれたときから不幸続きだった。誕生と同時に母親は死に、父はその半年後に自殺。
引き取ってくれた祖母も、愛犬も幼くして失った。
そんな彼女の楽しみは歌うこと。夜な夜なライブハウスに足を運んではヘビメタを歌いまくっている。
しかし、時折失った両親のことを思うとやるせない気持ちになる。
母親の命日は特にそうだ。自分の誕生日と重なっているのだから。
21歳の誕生日にも、やはりディランは悲しくなって事故現場前のベンチでひとり泣いていた。
すると、ひとりの青年が現れて・・・。
第3章 ハビエル&イザベル夫婦
ハビエルはスペインのオリーブ農園で働いている。平凡だが、誠実で堅実で、愛する妻もいる幸せな男だった。
あるとき、妻イザベルはみごもり、可愛い男の子を出産する。ふたりは男の子にロドリゴと名付けた。
ロドリゴは大きな病気もなく、すくすく育つが、一点気がかりなのは農園主、サチオーネが頻繁に家に出入りしていることだった。
彼は明らかにイザベルに気がある。そこで、ハビエルは妻の心を取り戻すべくニューヨーク旅行を計画するのだが、結果的にこれが大失敗だった。
ニューヨークで起こった事件のせいで夫婦仲は悪化。やがて家を出ることになってしまう。
一方ですくすく育ったロドリゴはその後大学生活を謳歌。彼女もできるが、何か違うと思っている。シャリは一緒にいて楽しい。けれど運命の相手ではないような気がするのだ。
悶々としていたロドリゴを、その後衝撃的なニュースが見舞う。失意の中でランニングに出たロドリゴは、ベンチで泣いている女性を見つける。
彼女は、サンドイッチを食べていた。
4章 エレーナ
作家のエレーナは上梓した本の読書会を行っていた。本のタイトルは、『ライフイットセルフ』。自身の祖父母の代からのファミリーヒストリーを綴った本だ。
本を紹介しながら彼女は言う。
「人生とは常に人の意表をついて驚かせ、ねじ伏せてくるものです。しかしそんなときでも我々はまた立ち上がって前に進んでいかなければなりません。
これは、永遠の愛の本です」と。
一見してバラバラだった4つの物語はここで統合され、完結する。そして、真の語り手が誰だったのかが明かされるのである。
芸術性とエンタメ性の黄金比率に感動
個人的な意見だが、映画はアメリカが一番だと思っている。予算をかけているとか、いい人材がハリウッドに集まるからとか、映画発祥の地として歴史があるからとか、理由はいろいろあるが、そのひとつに優秀な脚本家が揃っている点がある。
映画というのは娯楽である。一部の専門家が分析して楽しむものではなく、大衆が気軽に楽しむものである。
だから、過度に芸術性にこだわったり、難解であったりするものはいい映画とはいえない。
映画が一本7、8ドルで観られる映画文化のアメリカの脚本家はそのことを熟知している。
そのため、アメリカ映画は全般的に単純なストーリーで高いエンタメ性がある。
この作品もテーマこそ大学の文学の授業でやるようなものだが、そこは外していない。小学校高学年ならば十分に理解できる内容に芸術性を散りばめた形になっているのだ。
これがアメリカ映画が世界的に興行的成功を収めている理由のひとつだ。
物語の真の語り手は誰か?
「信頼できない語り手」というのは、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』や推理小説などに見られる、読者をミスリードする語り手のことだ。これがこの作品の大きなテーマとなっている。
それがよく表れているのが1章と4章であり、物語の核がここにくる。
入り組んだつくりではあるが、すぐに種明かしをしてくれるので混乱することはない。
サンドイッチの出会いの再現など、オシャレなシーンも散りばめられている。
まとめ とにかく飽きないで観られる
人生の悲喜こもごもをテンポよく描いた名作。ちょっとした謎解き要素もあるので、それも楽しめるヒューマンドラマです。
役者も粒揃いで、時間を無駄にした感はありません。
お疲れのときに、癒されたいときに、オススメのアメリカ映画です。
こちらで視聴できます→U-NEXT
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