フェミサイド大国日本: 日本が「男性にとってだけ」治安が良い国である理由

一般に、日本は治安が良いと言われる。しかしそれは本当だろうか?
女性として日本で生まれ育った経験から言うと、治安が特別良いと思ったことはない。
女性を標的とした犯罪は多いと感じるし、それに対する刑罰も再発予防策も十分ではないと感じる。
夜は、どうしてもの用事がなければ極力一人では出歩かない。
夜に一人で自由に外を出歩けない環境は、治安が良いとはいえないと思っている。

しかし、一般には日本の治安は良いと言われる。
このギャップは何なのか。
今回、その疑問を解消する一つのデータを得た。
それが「殺人事件の犠牲者全体に占める女性の割合が、日本は突出して高い」というものだ。
これについて得た情報を共有したいと思う。

フェミサイドとは?

まず、フェミサイドとは、広く「性に基づく動機で女性を故意に殺害すること」と定義づけられている。
例としては、DV殺人、ストーカー殺人、レ◯プ殺人、名誉殺人等があり、統計では女性の殺人被害者の4〜5割が配偶者を含む家族、または元配偶者に殺されている。

日本は殺人犠牲者に占める女性の割合が突出して多い

ところで、警察庁の犯罪被害者白書を見てみると、毎年殺人の犠牲者(死亡者)に占める女性の割合は約半数、あるいは過半数である。(2020年は全体の58%。統計の「被害者」数には未遂も含まれるため、死亡者数で計算)

ところが、この数字は世界平均の19%大きく上回っているのだ。
この傾向は2020年に限ったことではなく、直近18年ほどそうであり、女性の犠牲者が全体の約半数という状況が続いている。(警察庁犯罪被害者白書より)

また、他の先進国に比べ、女性犠牲者の比率が高いことは、データにも表れている。
以下は国連の2020年のデータから抜粋した、人口10万人あたりの殺人犠牲者の割合(男女別)である。

これを見てみると、男性犠牲者の割合は、例えば比較的安全とされる欧州と比較しても非常に低く、確かに「男性にとっての」治安は非常に良いことがわかる。
しかし、女性の数値を比較してみると、下がり幅はそれほど大きくない。
例えばイギリスとの比較では、日本の男性犠牲者の人口比率がイギリスの約六分の一なのに対し、女性では二分の一未満である。
また、アメリカの場合は男性約四十七分の一、女性約九分の一となる。

また、数値の上でもアメリカ、ロシアを除くほとんどの先進国で女性被害者の割合は10万人あたり0.5前後であり、日本女性0.29とさほど乖離はない。
つまり、日本女性が突出して安全であるわけではないことがわかる。

以上のことから、日本は「男性にとっての治安は非常に良く、女性にとっての治安は若干良い国」だということがわかる。
日本は凶悪犯罪じたいは少ないが、殺人事件の犠牲者に女性が多く、二人に一人以上が女性なのだ。
これが、日本が女性にとってはさほど安全ではない根拠である。

日本の警察の民事不介入体質が家庭内暴力やストーカーを放置した結果、女性が犠牲になるフェミサイドが多発している

ではなぜこのような現象が起きるのか?
その理由の一つとして、民事不介入体質で家庭・男女間問題に踏みこみたがらない警察が放置したDV、ストーカー事案が殺人事件に発展するケースが相当数あると思われる。

国連のデータによれば、女性被害者の約半数夫/元夫・恋人/元恋人・家族に殺されており、日本でもそれに近い数字だと思われる。
その場合に、犯罪が起こるのは主として家庭であり、日本の警察が伝統的に介入せず「治外法権」としてきた領域である。
そこでは暴行、傷害事件も「夫婦喧嘩」として扱われ、経済力のない女性は逃げられなかった。(そして現在もそうである)

DV、ストーカー事案の検挙率は約一割


例えば、2023年の警視庁へのDV相談件数は約9000件だが、検挙に至ったのはその一割未満である。
また、2022年度の警察庁の資料によれば、全国の相談件数約85000件に対し、検挙数は8500件と、こちらもやはり総数の一割程度にとどまっている。
このように、DV防止法施行以後DVは民事不介入の対象ではなくなったにもかかわらず、日本の警察がいまだ民事不介入体質で暴力夫を逮捕したがらないことが、数字にも表れている。

また、ストーカーによる検挙も、相談件数の一割程度と非常に低い。
これにより、ストーカー規制法が運用の面でうまく機能していないことがわかる。
例えば、つきまといや待ち伏せ行為はストーカー規制法違反であり、禁止命令や逮捕の対象だが、証拠をとるのが難しく警察がなかなか動かない。(現行犯逮捕は可能)
そのために、ストーカー被害の悪化を防げず、事件化するケースが多いと思われる。

これらの大元の原因は、警察が男女トラブルに介入することを嫌い、女性の安全を守れない日本の風土に起因すると考えられる。
昔から日本の警察が「民事不介入」といって家庭内暴力やストーカーの取り締まりに消極的だったことはよく知られている。
「夫婦喧嘩は犬も食わない」と言って夫から妻への暴行・傷害を放置してきたのである。

しかし、圧倒的腕力差のある男女間で暴力を伴った「喧嘩」は成立しない。
それは多くの場合一方的な暴力となる上、殺人事件に発展する可能性があるため、DV事案では被害女性の早急な保護と加害男性の処罰・隔離が必要である。
また、ストーカー事案も事件化のリスクがあるため、しっかりした対処が必要である。
このことを警察がまだ十分認識していないため、特に家庭領域でのフェミサイドの犠牲者はなかなか減らないと思われる。

専門家が教えるストーカー対策

では、私達はどうすれば良いか?
ストーカー被害においては、まず第一に証拠保全が重要であると、元警官で危機管理コンサルタントの佐々木氏は言う。
警察は証拠がなければ動きづらい。
そのため、

①ストーカーからの着信履歴やメッセージの履歴のスクショ、電話の録音、プレゼント等を保存し、警察に提出

すれば立派な証拠になるという。
また、つきまといや待ち伏せ、徘徊等の被害の場合には経緯がわかるように

②「いつ、どこで、誰が、どんなストーカー行為をしたか、どんな様子だったか」を紙に書いて提出する

と、警察は対応しやすくなるという。

更に、17時以降の夜間や休日は警官の数が減り、人手不足で対応もおざなりになりがち(当直の警官がストーカー対応に詳しくない場合もある)なので、緊急でない場合は、

③電話予約をして平日日中に警察に行く

と、しっかり対応して貰える可能性が高くなるという。
そして、

④警察に何をして欲しいのか(逮捕なのか警告なのか)を明確にする


ことも重要とのこと。
正直、被害者側に多くを負担させる制度ではあると思うが、このように、警察を動かすためにできる工夫を覚えておくといざという時に役に立つかもしれない。

ストーカー規制法について

ストーカー規制法では、繰り返される同一の者に対するつきまとい、待ち伏せ、行動を監視していると告げる、交際要求、著しく乱暴な言動、無言電話やメッセージ送信、汚物送付、相手の承諾なく位置情報を取得すること等を「ストーカー行為」とし、禁止している。
このような行為を受けた場合、警察で以下の対応が取れる。

警告

被害者からの申し出がある場合、警察が加害者にストーカー行為をしないよう口頭注意、または警告書の交付を行う(違反の罰則なし)

禁止命令

警告を無視して繰り返す場合、つきまとい等やストーカー行為について「さらに反復して当該行為をしてはならない」と命じる法的措置がとれる(緊急の場合、警告を経ずに発出可能)。
違反した場合には逮捕・処罰となることが多い。

検挙/逮捕

ストーカー行為が特に悪質な場合は禁止命令や警告を経ずに逮捕されることもある。
しかし一般的には禁止命令違反で逮捕される場合が多い。(警察庁資料)
つまり、通常のケースでは

警告→禁止命令→逮捕

の過程を辿る場合が多く、例えば犯人を逆上させたくなくて警告を求めなかった場合、次の禁止命令に進むことができず、禁止命令が出されなければ逮捕もできないということになる。

そして、ストーカー被害が警告や禁止命令なしの逮捕相当かどうかの判断はある程度担当警察官の裁量であり、ストーカーに厳しい警官なら即逮捕してくれるかもしれないが、そうでない警官の場合はまず警告からということになる。
これこそがストーカー規制法の穴であり、検挙数が低く、ストーカー殺人を防ぎきれない原因のように思う。

被害女性の立場に立ってみれば、警告という違反に何ら罰則のない警察からの注意は、加害者を逆上させるのではないかという恐れから求めにくい。
しかし、この警告を経なければ逮捕しにくい仕組みなのだ。
非常に悠長で、いかにもストーカーに遭ったこともなければ想像力もないオジサンが考えた制度という感じである。

素手で自分を殺すことができる男性にストーカーされるということが、女性にとってどれほど危険で恐ろしいことか分かっていれば、このような無意味どころか逮捕への障害にさえなる「警告制度」など作らなかったはずだ。
そして通報があったらただちに逮捕できて必ず執行猶予なしの実刑判決が下る仕組みを作り、一定期間加害者を被害者から隔離したはずだ。
そのような法制度と運用があれば、ストーカー殺人はほぼ根絶できただろう。
よって、この薄っぺらのストーカー規制法とその運用、及び初犯に無闇に執行猶予をつける日本の司法制度は、今後改善していかなければならない。

罰則

・ストーカー行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(第18条)
・禁止命令等に違反してストーカー行為をした者は、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金(第19条)
・禁止命令等に違反した者は、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金(第20条)

まとめ いまだ日本の私的領域(家庭)は治外法権

以上見てきたように、DVやストーカー事案に対する日本の制度はまだまだお粗末であり、このことがフェミサイドが一向に減らない原因の一つと考えられる。
一方で日本の警察や司法は、フェミサイド以外の犯罪についてはしっかりと「対策」できているらしい。
殺人事件の男性被害者数が激減しているからだ。(2004〜2020年にかけて女性被害者が15%減少したのに対し、男性被害者は40%減少)
これが、犠牲者全体に占める女性の割合が近年むしろ増えている要因だろうと思われる。
日本の警察・司法は、いわゆる公的領域の犯罪撲滅には積極的で、有能なのだ。

しかし、私的領域(家庭)男女トラブルに起因する犯罪に関しての認識と対策は中世レベルというのが現状なのである。

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