1年間ソーシャルVRを体験した所感
皆様ごきげんよう、2020年5月29日をもってVRChatを始めてから1年が経過しました。
この1年間は本当に色々な事がありました、よもや1週間もVRの世界から戻ってこない実験をする事になるとは、VRをやる前の自分に言った所で信じないでしょう。
今回の記事は、この1年間を通して気が付いた事や思う事をまとめた記事になります。
特性上、少々自己語りが多くなってしまいますが、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
尚、半年が経過した際に所感をまとめた記事を以前書きました、そちらと併せて読んで頂けるとより楽しんで頂けると思います。
そもそも何故やろうと思ったのか?
詳しくは上記の記事に書いてあるので、こちらではザックリと触れる事にします。
元々、.hackやソードアート・オンラインといったSF作品が大好きだったので興味はありました。
それこそ、世界初のコンシューマー向けVR機器であるOculus Rift CV1が発売される前より注目をしており、開発者向けツールであるOculus Rift Development Kit 2(通称DK2)を本気で買おうかどうか迷った時期もあった位です。
いざ初代HTC VIVEを買ってみたのですが、やれる事がせいぜいカスタムメイド3D2とSkyrim VR位しかなく、両方とも早々に飽きてしまったのでOculus Rift Sを買いなおしてVRChatを体験するまではVRを楽しんだ時間は100時間も無いと思います。
私が初代HTC VIVEを買った頃のVRに対する雑なイメージ図
因みに、5月29日現在のVRChatプレイ時間は1774時間でした
まだ当時はVRChatの存在をほぼ知らず、Vtuber文化にも興味が無かったためソーシャルVRは完全に認識外でした。
それでもVRに対しての興味を失った訳ではなく、様々なVRに関する著書を読み漁っていた最中、ピーター・ルービン著「フューチャー・プレゼンス」という本においてソーシャルVRの紹介があり、その中にVRChatの記述がありました。
流石に情報が古くなってきていますが、依然としてオススメ書籍です
丁度Oculus Rift Sの発売も重なり、再購入してやってみようかという事で始めたのがキッカケです。
日常生活の変化
もう今となってはソーシャルVRは完全に日常生活に組み込まれています、生活必需品と称して過言ではない位には。
屋外へ遊びに出かけるような感覚でVRHMDを被りますし、なんなら昼寝をしたり、落ち着く風景や情景を楽しみながら酒を飲んだりもしています。
一時期、諸般の事情により2ヵ月程VRChatをまともにできない期間があったのですが、普段がそんな具合なのでとんでもなく辛かったです、屋外へ出るための扉の鍵を無くすような感覚に陥っていました。
VR機器は高いか?
我らがOculusの創業者であり現行のVRHMDの生みの親、パルマー・ラッキー氏は「価格は確かにVR利用者数に影響する要因の1つかもしれませんが、主要因ではありません」と語っていますが、これは核心を突いている意見だと思います。
私は既に前項で話したOculus Rift Sを手放しており、より性能の高いValve indexフルキットを購入しています。
脚と腰を動かすためにVIVEトラッカーも装備し、更にはコントローラーとトラッカーの充電が切れないようにモバイルバッテリーを取り付け、PCのグラフィックボードもアップグレード予定です。
全て合わせると、動かすPC本体を抜きにして大体20万円位はします。
それに加えて、長時間VRを快適に行うために座布団を買い替えたり、フェイスクッションパーツを別の物にしたり、VRHMDを着けたまま睡眠をするために枕も買い替えたりしました。
動かすパソコン諸々を含めてVRには大体35万円程使っていると思います。
これに加えてVR内で動かすアバターやツール類等、他にもかけています。
普通の感覚ですと、オンラインゲームのようなものをするために20万円、ましてパソコンから揃えて30~35万円も使うのは正気の沙汰ではないように思われるかもしれません、私も以前はそうでした。
車を想像して頂きたい、とても便利な代物で、仕事に欠かせないという人も居ますし、車に乗る事を生きがいとしている人も居ます。
しかし車は高いです、中古車といえど1台20万円越えはザラにありますし、新車を買おうものならさも当然のように100万円を超えます。
更には面倒な免許証取得まで必要で、動かすための燃料代も必要ですし、車検やパーツの修理交換等もあるので維持費もかかります。
ではなぜそんなに高い物でも皆買って使うのかと言われたら、値段だけの価値があるからだと私は思っています。
これはVR機器も同様で、値段は高いものの、それに見合うだけの価値があると踏めば買います、少なくとも私はそれだけの価値があると思っています。
実は、現行で出回っているVR機器は頭と両手を動かす事ができる3点トラッキングという方式が主流で、下半身は自由に動きません。
腰や足を動かすためにはVIVEトラッカーという物が必要で、この機器を揃えるためには追加で5万円程かかり、Oculus製品を使っている方はベースステーションという機器も必要になり、更に5万円追加費用がかかります。
それだけの金をかけて手に入る恩恵が仮想現実で腰と脚が自由に動くという物です、VRを知らない人にはあまり凄い事には思えないかもしれません。
しかし、少しでもVRを体験した人であれば感想は様変わりすると思っています。
ことVRChat日本語圏はこのフルトラッキングで動く人がかなり多く、一説にはトラッカーの類を利用して下半身を動かしている人は半分を超えているというものまであります。
下半身が動く、その恩恵を受けるためには大金を投入する事も惜しくは無いという人が多いという現れなのではないかと私は思っています。
パルマー氏はユーザーのVR利用が続かない原因は「体験の質だ」と語っています。
私もVRChatを始める以前は、HTC VIVEフルキットを購入しても言うほど性能は良いと言えず、コンテンツもそこまで面白い物が無かったので正直、買ったのは失敗だったかなと思いました。
使わなければ意味が無いと考え、値段が下がらない内に売っぱらいもしました。
それでも現状、VRの体験をより良くするために大金を投じているのは、ソーシャルVRにはそれだけの価値があるからです。
勘違いしないでほしいのは、何も最初から20万だの30万を使ってVR環境を揃えろと言っている訳では無いという事です(最初からフル装備のストロングスタイルの人も最近は散見されますが)
私とて、現状の環境を構築するために1年かかりました。
VR機器が高いという事に変わりはないですし、いざ体験してみても合う合わないもあると思います。
レンタルでも中古でも良いので、まずはVR及びソーシャルVRという物を比較的安価で体験して、それから考えれば良いと思っています。
VRは広まっていくか否か
ウイルスの影響による外出自粛等もあり最近はそうでもありませんが、少し前までVRは広まりようがない、という意見が結構多かったように思えます。
いくら体験の質が素晴らしかろうと高い物は高いし、そういう体験をするのであれば外に出て楽しむから別にいい、という話を以前伺いました。
これは最もな意見であると同時に、本質を見極められていないなと思っています。
VRには距離という概念がほぼ存在せず、時差の問題はあるものの地球の裏側の人とも空間を共有し、会話を楽しんだりする事ができます。
更には、人と会う際のリスクという物が現実空間に比べ比較的少ないです。
極端な話になってしまいますが、酔っ払いに絡まれて殴られる事はありませんし、通り魔に刺される事もありません。
直近では、それこそウイルスや病原菌を貰うといった事が無いという事が挙げられます、三密を作ろうとクラスターになろうと問題は無いのです。
それだけだったらテレビ通話を利用した会議やチャットと同じだと思う人も居るかもしれませんが全くの別物です。
距離感に加えて空間を共有しているという臨場感はビデオ通話では真似できる物ではなく、VR独特のものです。
流石に現実空間で互いに合う事には現状において敵わないとは思いますが、現実の空間をエミュレートしているのがVR技術と言っていいでしょう。
今までは現実の代打としてVRを語ってきましたが、仮想現実において最も素晴らしい事は現実世界では不可能な事も容易に行える事です。
どんな格好にでも、人間以外の恰好になるのも自由ですし、取り巻く空間も好き好んで弄れますし、物理法則なんて軽く無視したって構いません。
注目する人が比較的少ない印象を受けますが、現実の代打としてのVR空間も魅力的ですが、真の魅力は現実以上に自由度のある世界であるという事だと思っております。
それらを踏まえて、VRは遅かれ早かれ広まっていくと私は思っております。
かつてのインターネットは一部の好事家にしか好まれない世界だったのですが、今やスマートフォンを皆持ち、ごく当たり前のようにネットに繋ぐ事ができます。
同じように、何れは浸透していくだろうと思います。
現状におけるソーシャルVRの問題点
以前、某所で記入したアンケート内容を一部抜粋して載せる事にします。
ソーシャルVRというより、ほぼVRChatにおける問題点です。
・データが引き抜かれる可能性が高い
現状のVRChatにおいてはアバター、ワールド共々一度アップロードした上で使用するという形になるので、常にデータが引き抜かれる可能性に晒される事になる
これを解決するにはサーバー内でモデルの購入情報、データを管理した上で、ローカルには引き抜いても使用できないようなデータにした上で出力をする必要がある
・スマートフォン対応していない
現在はPCの普及率よりもスマートフォンやタブレットの普及率の方が上で、スマートフォンで楽しむ手段が存在しない(現在はclusterが対応しています)
PCのデスクトップモードに該当するようなモードが無いと、わざわざ5万円もするOculus Questを購入したり、デスクトップPCを買ってまでやってみようと思う事はまず無い
・動作が重く、人が集まれない
現在はPCVRモードでも機敏に動いているとは言い難く、40人も集まると動作に支障が出てくる
ライブイベント等人数が多ければ多い程楽しくなるイベントも少なくないため、大人数集まれないというのはかなりの痛手になっている
ひとつのワールドに実質的な人数制限やワールド容量制限があるせいで世界に広がりというものが作りにくく、箱庭のような場所が多くなってしまい閉鎖感が出てしまっている
・言語対応、日本語ローカライズがされていない
グローバルなサービスを目指す上では様々な言語に対応する事は必須になる
・VR機器が高すぎる
VRを動かすためのPC、VR機器本体、全身トラッキングのための道具等、全てを揃えて始めるまでの敷居があまりにも高すぎる
一番お手軽なスタンドアロン型のOculus Questですら5万円する、これでは面白いかどうか分からないVR機器よりも、Nintendo switch等を買った方が良いと多くの人は思ってしまう
・楽しむための技術的敷居が高すぎる
現状のVRChatでは購入したアバターをアップロードするためにUnityを入れたりする必要があり、専門的な知識が大量に必要になる
UnityやBlender等は着せ替えツールではなく、プロが扱う列記としたゲーム開発エンジンやモデリングソフトのため「アバター購入→アップロード→色を変える→メガネやアクセサリーを付けたり、服を着替えたりする」程度の事でさえ初心者が行うのは困難を極める
アバターアップロード等を一切行わず、ペデスタル設置のアバター等で楽しむ事は不可能ではないが、自らの分身たるアバターのエディットを放棄するのと同義であり、何の解決にもなっていない
また、奥深さや自由度はUnity等プロの開発エンジンが使えるからこそという前提に成り立っているという事実もあるため、ただ排斥すれば良いというものでもない
・分かりやすい初心者への動線が存在しない
まず何をすればいいのか、どうすべきなのか
そういった説明というものが存在せず、解説してくれる人と出会えないという状況に陥ってしまうと、高いハードルを掻い潜った上でVRを始めたとしても、そのまま飽きて辞めてしまう可能性が高い
・コンテンツや情報発信の殆どが内向き
プラットフォーム内への発信が殆どで、外向きに向けた情報提供が成されていない
内輪では大変盛り上がるが、外から見ても楽しそうには見えないし、興味もそそられない
また、VRは一人称視点の個人の体験でしかなく、外部から見ても魅力が伝わらず、結局は体験をしてみるしかないのが現状になってしまっている
・著作権や法律周りが分かり難すぎる
クリエイターにより著作権の扱いが変わり、利用するモデルデータやツールの利用規約を全て読むしかない
また、VRChatにおいては著作権等が米国の法律により裁かれるので、日本人の感覚だと齟齬が生じてしまう上に、問題を更にややこしくしてしまっている
・NSFWやR-18が公認されていない
現状、これらの行為を公認しているVRプラットフォームは存在しない
・金銭を稼ぐ事が規約上不可能
例えば、イベントを企画した上で入場料を取ったりする事が不可能のため、商売として考えた上では一部が割を食う形になってしまっている
今後の目標
第一に、VR人口の拡大を目的として活動をしていきたいと思っております。
まずは母数を増やさねば話になりません、認知を増やし、実際にVRを活用する人を増やしていく事が目標です。
そのためには、VRはおろかゲームやPCに殆ど触れた事が無い人でも楽しめる、興味が惹かれるような動線作りが最も重要であると思っています。
よく見かけますが、初心者向けと称してマニュアルのマニュアルが必要な説明書きをしてはならないと思っております。
少しでも面倒臭そう、つまらなさそうと思ってはやりたいとも思わないのは無理からぬ話です。
第二に、VRを生活の場として活用する事を目的とします。
具体的には、外出するのと同じ感覚でVR空間を楽しんだり、食事や睡眠、運動といった生命活動に必須な事を行ったり、執筆やモデリングといった作業をこなせるように努めます。
最終的には現実世界に居る時間<仮想現実に居る時間という人物をより多くする事が目標となります。
これは冗談でもなんでもありません、現状のVR機器の性能においては少々無理があるというのは理解していますが、少しずつでも良いので課題を洗い出し、対策をしていけば理想は現実になり得ると信じています。
終わりに
ここまで読んで頂きありがとうございます。
1年というのは過ぎ去ってしまえば早いものです、と言いたいのですが、VR空間上では起きる事があまりにも多すぎて、もっと長く時間が経過したような気がしてならないです、3年間分位の刺激的体験をしたと思います。
新しい機器も次々と登場してきて、以前に比べれば遥かにVRを体験しやすくなったものの、依然としてハードルは高いと思っています。
インターネットで例えるのであればISDNで接続していた位の時代なんじゃないかと思えます、広まっているとは言い難いです。
まだまだ出始めの技術であるとは思いますが、素晴らしいものである事に変わりは無いので、引き続き普及に努めていきたいと思います。
最後に、ソードアート・オンライン第1期14話「世界の終焉」より、茅場晶彦の台詞を引用して終わりたいと思います。
「空に浮かぶ鋼鉄の城の空想に私が取りつかれたのは、何歳の頃だったかな……」
「この地上から飛び立って、あの城へ行きたい……長い、長い間、それが私の唯一の欲求だった」
「私はね、キリト君。まだ信じているのだよ――どこか別の世界には、本当にあの城が存在するのだと――……」
彼の欲求は今なら体で理解できると同時に、強い共感を覚えますね