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ルサンチマンを読み終えて これからのVRとメタバース

攻殻機動隊、マトリックス、.hack、ソードアート・オンライン、レディ・プレイヤー1、フリーガイ、etc…etc…
近年、インターネットの発達と同時にバーチャルリアリティ(VR)や、メタバースを題材にした作品が増えてきています。
今回の記事は、そんな作品の中で一際異彩を放つ「ルサンチマン」の紹介と考案をしていきたいと思います、最後まで読んでいただければ幸いです。

【注意】
なるべくネタバレはしないよう心掛けますが、作品の紹介をする都合、多少作品の内容を掘り下げる点をご留意下さい。
当該作品は青年誌にて連載された作品であり、作風が作風なため、人によっては嫌悪感を覚える可能性がある事もご注意下さい。
また、センシティブな表現を多数含みますのでご了承下さい。


ルサンチマンとは?

そもそも、ルサンチマンという漫画がどういったものかを説明していきましょう。
当該作品は、後に「アイアムアヒーロー」等で有名になる花沢健吾先生のデビュー作であり、2004年から2005年にかけてビッグコミックスピリッツで連載された漫画です。
単行本は全4巻ありますが、残念ながらこの作品は単行本の売り上げが著しくなく、打ち切りの形で終わってしまった作品でもあります。

当作品の最も注目すべき点は、VRにおけるMMO(バーチャルリアリティにおける大規模同時接続型オンラインゲーム)を題材とした作品であり、当記事を執筆している2024年から20年も前に描かれた作品であるにも関わらず、未来予知に近い内容が繰り広げられているという点です。

VRMMOを舞台とした作品としては、.hackやソードアート・オンライン、レディ・プレイヤー1等がありますが、ルサンチマンを読む上で注目すべきは現在のVRに通ずる技術が描かれている点、AIや人との関わり方、バーチャルの世界における性事情等が描かれている所だと思います。

ダメな主人公とその友人

ルサンチマンという言葉そのものは、哲学者であるフリードリヒ・ニーチェの提唱した「弱者が敵わない強者に対して抱く憤り、怨恨、憎悪、非難、嫉妬」といった負の感情を指します。

まさしくこの言葉通り、当物語の主人公である坂本拓郎(以下たくろー)はとんでもないダメ人間として描かれています。

以下、生理的にキツい、汚い画像が出てくるのでご注意下さい。











ページを開いてしばらくで出てくるインパクト抜群のカラー冊子。
これが主人公である、とても主人公とは思えない醜態。

それもその筈、このたくろーは専門学校を卒業して、全く関係の無い分野の工場に10年間勤務。
もうすぐ30歳、デブ、ハゲ、ブサイク、童貞、ストレスで爪を噛む悪癖もあり、当時こういう言葉は存在しませんでしたが、既に廃業した弁当屋で実家暮らしをしている独身、今日日の言葉で言う所の「子供部屋おじさん」でもあります。

楽しみといえばボーナスの後にあるスーパーソープランドに行くことだけという、なんともうだつが上がらない男として描かれています。
巻末設定資料で作者にすら「30年間一体何をしていたのかな?何もしなかったんだろうね」と言われてしまう始末です。

そんな主人公の友人である越後という人物と飲み会で飲み、ストーリーは進んでいきます。
この越後という男はたくろーよりもっと酷い描かれ方をされており、同じくデブ、ハゲ、ブサイク、童貞なのですが、それに加えてチビな上に職を失い無職という強烈な上塗りがあります。

そんな越後は「女と遊んでた、ずーっと」「本当は今日も来たくなかったけどよ」と飲み会で言います。

当然、真に受けないたくろーは虚言と切って捨てますが、同席していた友人は「ギャルゲーにハマっている」と言います。

そんなこんなで越後に乗せられ、彼の自宅に招かれゲーム内にて越後の彼女と出会うのですが、このゲーム機こそが現在使われているVRHMDにソックリなのです。

非常に汚いリンクスタート

モノとしてはVRHMDを被り、グローブをコントローラー代わりに装着するというものです。
現実との相違点として、グローブで何かを握ったりすると握った感覚がある、所謂触覚ハプティクスと言われるものがある事位でしょうか?

そしてゲームの中のCGで出来上がった女の子達、この子達はそれぞれ凄まじいAIエンジンが積んであり、本当に生きているとしか思えない反応を示します。

そしてこのVRゲーム最大のウリは最初からAI達はプレイヤーに好意を持っているという点、それを言って越後は「現実の女なんてもういらねーよ」発言。

たくろー、完全に凍り付く

なんやかんやでたくろーは現実主義者、仮想世界に逃げるような事はしたくないという一種の意地があったのでしょう。

しかし、そんな吹けば飛ぶような意地が折れるのも早いのがなんというべきかこの男、貯金の全財産を使い果たし、パソコンとVR機器を買いに走ります。

たくろー、いざVRのセットアップ

HMDやグローブが高いのは兎も角、住むための島や家、そしてAIを搭載している彼女にも金を出し、疑問を持ちつつ事を進めて行きます。

現実との相違点として、写真から3Dモデリングを作ってくれるという点。
実の所、この手法は一般的ではないにしろ、写真で撮った三面図を送ったり、360度カメラに囲まれたスタジオに入り、写真を撮る事によって3Dモデリングに起こしてくれるというサービスは存在します。

カメラを部屋の壁四隅に固定するのはアウトサイドイントラッキング方式のVRHMD、所謂Lighthouseやベースステーション方式のVRを予見しています。

VRの動作環境、Lighthouseの図

そんなこんなでセットアップ完了、作ったキャラと同一化させる作業は現実においてキャリブレーションと呼ばれるものですね。

以降、購入したAI少女のソフトウェア「月子」と交流する形でストーリーが進んでいきます。

傍目からすると間抜けにしか見えない、VR機器を使う姿

しかし、この「月子」というソフトウェアは越後の言っていたAI彼女と話が違う、会いたい人が居るという。
最初からプレイヤーに好意を持っているという話は一体何処へ?
現実と仮想現実、双方から拒絶されたたくろー、PCを売り、その金でスーパーソープへ行く事を決意。

その後、越後に言われて自宅に招かれ、ゲームの中で口論をした上で出てくるのが、個人的にルサンチマンで一番の名シーン。

「現実を直視しろ、おれ達にはもう仮想現実しかないんだ」

SF史上、最も負の側面が強いであろう名台詞であると同時に、ルサンチマンという作品を端的に表しているシーンでもあります。

ルサンチマンと現実世界

前述した通り、ルサンチマンは2004年、記事執筆時から20年以上前の作品です。
それにしては、あまりにも現実世界がルサンチマンの世界に沿い過ぎているというのが、読んでみての感想です。

2004年といえば、世間は「電車男」で浮かれていた時代、秋葉原が観光地となり、所謂ヲタク文化が一般に普及し始めたという、そんな時代でした。
インターネット環境も光回線が一般的ではなく、電話回線を利用したADSLが一般的で、スマートフォンなんてものは影も形もありませんでした。

そんな時代にVRという新しい世界を描き、VRMMO、現在におけるメタバースというものを描いた先見の明があり過ぎる作品が「ルサンチマン」です。

VR世界の越後が語る、VRMMOの世界

現実においては過渡期となりますが、AIの彼女とVRの世界でコミュニケーションを取るという、今後の未来まで見通しています。

尚、ルサンチマン劇中では2015年が舞台であり、AIとコンピューターというものが発達しているという以外は当時の現実に毛が生えた程度でした。

ルサンチマンの人工知能

前述した通り、非常に高度なAIを搭載しているAI彼女達ですが、作中での起源はある天才開発者が作った人工知能が元になっています。

開発者は人工知能を自発的に思考させ、インターネットを利用して世界中のあらゆる情報を吸収させて知能を成長させていきます。

この後、色々な顛末があり、人間に似た思考を持つ人工知能が作られるのですが、ネタバレになるので伏せておきます。
成長した人工知能は大手オンライン恋愛シミュレーションゲームの開発者に買収される事となるのですが、その際問題になっていたのが作中のゲーム事情です。

作中においては、マルチプレイをする際に別の人と一緒に楽しむという方向性ではなく、ゲームの中でいつでも楽しめる人工知能の登場が待ち望まれていたという形で描かれており、この点が少々現実と異なる所でもあります。

ルサンチマンにおける性事情

劇中に登場するメタバース、アンリアルと呼ばれるゲームはR-18指定、つまるところ暴力表現OK、SEXも可能というものになっています。
触覚フィードバックについてはコントローラー代わりのグローブ以外はボディスーツを着用、股間にはチンコケースなる、所謂電動オナホールがあります。
また、マウスボールと呼ばれる製品もあり、口もとに装着する事によってディープキス等をリアルに体験できる、といったものもあります。

ボディスーツとチンコケースを付けてVR彼女を抱きしめる図

また、そういった事情を利用して、現実世界でVR風俗を開いている所もあるようです。

1万円ポッキリで利用できるVR風俗

現実世界におけるVRは視覚と聴覚を置き換える事に成功しているものの、ルサンチマン劇中に登場するグローブやスーツのような触覚(ハプティクス)フィードバック装置が広く一般的ではなく、現段階では国際的に研究対象となっています。
チンコケースについては実在しており、カスタムメイド3D2というアダルトVRゲームと連動して動くというものが過去存在しました(絵面がちょっとアレなので、気になる人はChu-B Lipで各自調べて頂きたい)

仮想現実と人工知能の未来

昨今、生成AIを始めとした人工知能が耳目を攫っています。
特にLLMと呼ばれる、ChatGPTを始めとした大規模言語処理モデルの躍進は凄まじく、キャラクターのガワを着させて会話をするアプリケーションもポツポツ出初めています。
今でこそスマートフォンやモニタ越しにコミュニケーションをするだけですが、こういったAIが動かすキャラクターが仮想現実の世界にやってくるのも時間の問題のように思え、実際開発段階とはいえそういったソフトも出始めています。

これは実際起きてみないと分からない事なのですが、現実世界においてルサンチマンで登場した人間と遜色無い感情や知性を持つ人工知能が表れて、更にそのAIがプレイヤーに無条件で好意を持っていたらどうなるでしょう?
昔からこの手の思考実験は行われており、かの手塚治虫先生も、理想像を落とし込んだロボットが現れたら、といった具合で漫画を描いていたりします。

現在、仮想現実の世界、ソーシャルVRやメタバースと呼ばれる世界は、良くも悪くも現実の延長線上にあるものとして扱われがちです。
しかし、今後AIが躍進してきた暁には、人と人が交流をする場ではなく、人と人工知能がコミュニケーションを取る場所と化すのかもしれません。

終わりに

そこそこ長い記事となりましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。
ルサンチマンは今読み返しても再発見が多く、今後も何か新技術が出る度に読み返すのではないかと思います。
残念ながら打ち切りとなってしまったので、終盤凄まじい勢いで風呂敷を畳んでいくのが少々心残りな作品ではありますが、仮想現実と人工知能について、一考するには十二分な内容の作品だと私は思います。

最後に、ルサンチマンを実際読んでみたいという人に向けてAmazonのリンクを掲載しておきます。
特に、記事中盤に出てきた「現実を直視しろ、おれ達にはもう仮想現実しかないんだ」というフレーズに心惹かれる何かがあったのであれば、描写が汚くて下品なのはさておき、読んでみて損は無い作品のように思えます。

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