国内でガバナンストークンの発行は可能か ー『Web3の未解決問題』から学ぶ
最近、仮想通貨やブロックチェーン技術が注目される中で、「ガバナンストークン」という言葉を耳にすることが増えてきました。ガバナンストークンとは、簡単にいうと、トークン保有者が組織の意思決定に参加できる権利を持つデジタル資産です。このトークンを使って、誰でも組織の運営に関与できる分散型自律組織(DAO: Decentralized Autonomous Organization)が形になっています。
今回は、『Web3の未解決問題』の第1章の1-2の「国内でガバナンストークンの発行は可能か」についてのメモと要約を書いていきたいと思います。
日本でも、日本DAO協会[1]ができるなど、DAOそのものが注目されつつありますが、実際に国内でDAOを組成するにはどのような法的課題があるのでしょうか?この記事では、日本におけるDAOとガバナンストークンの発行に関する現状と課題について、読書メモとして勉強がてらまとめることができればと思います。
by Project LUCK 飯野
↓↓↓目次↓↓↓
ガバナンストークンの発行に関する国内の可能性
日本ではDAO(分散型自律組織)とガバナンストークンについて、法律で明確に定められていません。これが意味するのは、DAOやガバナンストークンを作るための具体的なルールが存在しないということです。
一般的に、法律で定められていないから自由に作れると思われがちですが、実際にはそういうわけではありません。
日本では法人(会社などの組織)を作る場合、既存の法律に従って作らなければなりません。もし法人ではない組織を作る場合でも、過去の法律や判例に基づいて組織の性質が決まることが多いです。そのため、現状では既存の法律に沿ってDAOを作ることを考えなければなりません。
DAOの主要な要素とは
DAO(分散型自律組織)は一律に定義されるものではありませんが、いくつかの共通する要素があります。これらの要素を日本の法制度のもとで実現できるかどうか、またDAOの組成や運営に障害となる要素がないかについて検討が必要です。特に、課税方法やガバナンストークンの移転に関する要件、犯罪収益移転防止法に基づく取引確認など、重要な論点が多岐にわたります。
検討1: 法人
合同会社の特徴:
中央集権的な管理機構を持たない。
出資者の責任が有限責任。
ガバナンストークンを発行可能。
課題:
社員権の譲渡には全員の同意が必要(定款で変更可能)。
社員の氏名・住所の公開が必要。
トークンの発行や販売には金融商品取引法(金商法)の規制が適用される。
電子記録移転権利としてのトークンには重い金融規制が課される。
検討2: 組合
主要な組合の種類:
民法上の組合
投資有限責任事業組合(LPS)[2]
有限責任事業組合(LLP)[3]
組合の特徴:
中央集権的な管理機構を持たない形態を実現可能。
ガバナンストークンを発行可能。
利益は組合員に分配される。
課題:
民法上の組合は無限責任。
LLPは全員が業務執行を行う義務があり、組合員の変更には全員の同意が必要。
組合の持分は金商法上の集団投資スキーム持分に該当し、重い金融規制が適用される。
検討3: 権利能力なき社団
特徴:
法人格を持たない組織形態。
通説および判例により認められている。
課題:
民法上の組合とみなされるリスクがある。
利益分配を行う場合、金商法上の集団投資スキーム持分に該当し、規制が適用される。
利益分配を行わない場合でも、多数のトークンを発行する場合には暗号資産として扱わる場合がある。
以上のように、日本でDAOを組成するには多くの法的課題が存在しますが、これらを乗り越えるための法整備が期待されています。
DAO組成の検討
日本の法律に基づいてDAOを作るためには、既存の組織形態を利用することが考えられます。例えば、合同会社としてDAOを作ると、管理する人がいなくても有限責任を実現できます。
しかし、トークンの譲渡や登記に関する制約が多く、現実的ではありません。次に、民法上の組合や有限責任事業組合(LLP)も考えられますが、無限責任や全員の同意が必要などの制約があります。
また、権利能力なき社団も考えられますが、これも民法上の組合とみなされるリスクがあるため、慎重な検討が必要です。
DAOの制度創設に必要な要素
DAOを作るためには、いくつかの重要な要素を考慮する必要があります。まず、ガバナンストークンを購入する投資家の保護が重要です。次に、組織が負う責任を明確にし、債権者を保護することも重要です。
また、マネーロンダリング防止や税制に関する規制も考慮しなければなりません。特に、投資経験が少ない人がトークンを購入する場合には、どこまで自己責任にするか、既存の法律との整合性をどの程度重視するか、分散化された組織において規制を誰に適用するかなどが重要なポイントとなります。
既存の法制度のハードル
日本の法律に基づいてDAOを作る場合、さまざまなハードルがあります。
例えば、合同会社としてDAOを作ると、トークン保有者の氏名や住所を公開しなければならず、トークンを譲渡するたびに定款変更や登記変更が必要です。
また、トークンの勧誘や販売には金融商品取引業者の登録が必要で、厳しい規制がかかります。民法上の組合の場合、トークン保有者が無限責任を負うため、予期しない損害を被る可能性があります。LLPについては、全員の同意が必要で、組合員の変更が難しいです。権利能力なき社団についても、民法上の組合とみなされるリスクがあるため、慎重な検討が必要です。
このように、日本では現在、DAOを作るための法律が整っていないため、多くの障害があります。しかし、将来的には法律が整備され、これらの問題が解決されることが期待されています。
今回読んだ書籍
『Web3の未解決問題』
参考文献
[1] 日本DAO協会HP
[2] 投資事業有限責任組合(LPS)制度について ー 経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/kumiaihou.html
[3] 有限責任事業組合(LLP)制度について ー 経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/llp_seido.html
[4] 自民党ホワイトペーパー関連