コンジュジ
芥川賞候補に入っていた「コンジュジ」を読んだ。
あらすじを読んだ時から、心惹かれたのと、私の好きな川上未映子氏が、対談で大絶賛していたからである。
あらすじとしては、過酷な家庭を生きる少女せれながある日テレビでとっくの昔に死んでるイギリスのロックバンド、ザ・カップスのボーカル、リアン・ノートンの特集を見て恋に落ちる。彼との鮮やかで美しい妄想の生活と、地獄のような現実の対比。でもリアンも、せれなの思っていたような人物ではなく…。
三人称で淡々と語る書き方で、最初は感情移入出来ないかもなと思っていたのだけれど、本を閉じた後に、あとからあとからぶわりと涙がわいてくるような、そんな作品だった。少女せれなは終盤31歳になってるんだけど、幼い頃に実親から性虐待を受けた事をリアルタイムで受け止めきれず、妄想上のリアンに助けてもらってなんとか生き延びていたんだけど、その鮮やかな妄想が崩れ始め、同時に少しずつ読みすすめていた分厚いカップスの伝記でずっと避けていた、読みたくなかった章を読み、真実に触れて、自分の感情にも気づく。ラストの美しさと残酷さ。最後の一文は冷めたようにも聞こえるけど、ようやくせれなが現実を受け入れる事ができたあらわれなのかなと思った。
私はせれな程のひどい家庭環境を生きていた事はありがたい事になかったけれど、それでも高校生中盤から20代前半の、なんとなく「まだ何者にでもなれる」と心のどこかで思っていたのが「現実的な未来」を叩きつけられはじめた辛い時期にロックスター(私の場合はスウェーデンのバンドでした)に助けられた事があるので、気持ちがわかる。短大卒業してブラック企業にひっかかってその地獄の研修に向かう時「こんなとこにいるのは一時しのぎ、私の本当の居場所じゃない、私はいつかスウェーデンに行くから大丈夫。私には彼らがいる」なあんて考えてて(笑)。今考えると恥ずかしいけど、でもそう考える事で、当時は本当に救われたのです。(あ、ちなみにそのブラック企業は引っ越しまでしちゃったけど、研修だけ受けて我慢の限界で内定辞退という形で一度も働かずに辞めて引き返したよ。当時はどん底だったよ)
脱線しましたが、芥川賞とった「推し、燃ゆ」は未読だけど、どちらも系統は違うけど「推し」の話で、ダブル受賞してもいいんじゃなかったかって言ってる人もたくさんいますね。私もそう思いますが、とにかくこれがデビュー作の作者の次作に期待です!
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