三角関数の諸定理を初等幾何的に示してみる
早速ですが、問題です。
おおよそ難易度順に並べてあります。
問題
三角関数における加法定理や半角、3倍角の定理
1.
cos(a-b)=cos(a)cos(b)+sin(a)sin(b)
2.
tan(a+b)=(tan(a)+tan(b))/(1-tan(a)tan(b))
3.
cos²(a/2)=(1+cos(a))/2
4.
cos³(a)=(cos(3a)+3cos(a))/4
を初等幾何的に証明せよ。
1およびsinの倍角、相互法則を用いると3,4が証明できますが、その過程に代数的計算があるので、それさえも初等幾何の範疇に引きずり込もうと思います。
また、式4は整理により3倍角になるというだけでなく、三角関数の3乗を1次の式で表しているという、重要な意味があります。
数オリの範囲からは多少外れる議題のように思えますが、蓋を開けてみると、数オリで重要な様々な考え方が詰まっています。
全体的な考え方
右辺の複雑な式を幾何的に表現し、そこから初等幾何的な考察により左辺を取り出します。
例えば、足し算は、それぞれの長さの辺を作って辺同士を隣り合わせてあげれば、その全体の辺長として表現できますし、引き算も同様に辺を作り一端を揃えてあげれば、その差分として表現できます。
また、cos(a)cos(b)のような三角関数同士の掛け算は案外簡単に解釈できます。
斜辺が1の直角三角形からcos(a)を作って、そのcos(a)の辺を斜辺とする直角三角形からcos(a)cos(b)を作ることができます。
そして、最も重要なのが、これらの幾何的な解釈による構図が、最終的に単純な構図になるように心がけることです。
式の幾何的解釈を行う場合、工夫できる範囲は限られますが、それでも直角三角形をとる向きなどで、構図の美しさは変わってきます。
1の考え方
cos(a-b)=cos(a)cos(b)+sin(a)sin(b)
=cos(a)cos(b)+cos(90°-a)cos(90°-b)
と、cosに統一し、cos(a)cos(b)の辺とcos(90°-a)cos(90°-b)の辺が同一直線上に来るような構図を考えます。
a+b+(90°-a)+(90°-b)=180°に注目すると、これを成し遂げる構図は限られます。
特に、cos(a)の直角三角形と、cos(90°-a)の直角三角形が隣接すると長方形になるというのを利用すると綺麗な構図になりそうです。
これらを踏まえて、解答を作っていきます。
1の解答
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○が角度a、●が角度b
AC=1なる線分ACに対して、上図のような長方形ABCDをとる。
さらに、上図のように直角三角形ABE,ADFをとる。
ただし、○、●の大きさがそれぞれa,bであるようにする。
すると、∠FAD+∠DAB+∠BAF=180°より、3点F,A,Eは同一直線上にある。
そして、AB=cos(a),AE=cos(a)cos(b)および、
AD=sin(a),AF=sin(a)sin(b)より、
EF=cos(a)cos(b)+sin(a)sin(b)となる。
ここで、四角形EFDGが長方形となるようにGを取ると、DG=EF=cos(a)cos(b)+sin(a)sin(b)となる。
また、
∠BGD
=∠ADB-∠ADG
=(90°-a)-(90°-b)
=b-a
さらに、長方形ABCDの対角線BD=AC=1より、
DG
=cos(b-a)
=cos(a-b)
=cos(a)cos(b)+sin(a)sin(b)
となり、式1は示された。
2の考え方
tanは底辺が1のときの高さに現れます。
底辺が1、角度aの直角三角形Xに対して、角度bの直角三角形Yを、高さが揃うように内側に並べることで、角度bの直角三角形の底辺がtan(a)tan(b)となり、式2右辺の分母が表現できます。
また、左辺もtanのため、分子は分母を表す線分に垂直にしたいです。
直角三角形Xに、新たに角度bの直角三角形Zを乗せることで分子を表せますが、このとき直角三角形Y,Zの斜辺が直交する有名構図がとれますね。
これらを踏まえて、解答を作っていきます。
2の解答
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○が角度a、●が角度b
AB=1なる線分ABに対して、上図のように長方形ABCF、および辺AB上の点D、直線AF上の点Eを取る。
ただし、○、●の大きさがそれぞれa,bであるようにする。
このとき、BC=tan(a),BD=tan(a)tan(b)より、
AD=1-tan(a)tan(b)となる。
また、AF=tan(a),EF=tan(b)より、AE=tan(a)+tan(b)である。
ここで、∠EAD=90°、∠ECD=b+(90°-b)=90°
のため、4点A,C,E,Dは共円であり、円周角の定理より、
∠EDA=∠ECA=a+b
よって、
tan(∠EDA)
=tan(a+b)
=AE/AD
=(tan(a)+tan(b))/(1-tan(a)tan(b))
より、式2は示された。
3の考え方
cos²などの、三角関数のべきを直角三角形で表現しようとすると、頂角に角二等分線が現れるのですが、これは鏡映の構図によく類似しています。
特に、直角三角形は鏡映によって二等辺三角形を作るため、相性がいいです。
また、3の右辺の(1+cos(a))/2は、1の線分に対して、cos(a)の線分を、一端を揃えて内側に置いたときの、もう一端の中点までの長さであることが分かります。
これらを踏まえて、解答を作っていきます。
3の解答
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○が角度a/2
AC=1なる線分ACに対して、上図のように、直角三角形ABCを取る。
ただし、○の大きさがa/2となるようにする。
直線ABについて、Cと対称な点をC'とし、点B,Cから直線ACに下ろした垂線の足をそれぞれD,C"とする。
このとき、AB=cos(a/2),AD=cos²(a/2),AC"=cos(a)となる。
また、△ACC"は二等辺三角形のため、AC"=1である。
ここで、Bが線分CC'の中点であり、CC"∥BDのため、中点連結定理より、Dは線分CC"の中点である。
よって、
AD
=cos²(a/2)
=(AC+AC")/2
=(1+cos(a))/2
より、式3は示された。
4の考え方
3問目の考え方と同じで、今度は回数を増やして2回鏡映を考えると良さそうです。
また、式の意味も3問目と同じように、cos³(a)の点はcos(3a)の点と、cos(a)の点を1:3に内分する点である…と言えるので、
鏡映を考えるときに、3つの長さcos³(a),cos(3a),cos(a)が同一直線上に来ることに気をつければよいです。
これらを踏まえて、解答を作っていきます。
4の解答
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○は角度a
AC=1なる線分ACに対して、上図のように直角三角形ABCをとる。
ただし、○の大きさがaであるようにする。
直線ABに対してCと対称な点をC'、直線AC'に対してBと対称な点をB'とする。
また、
Bから直線AC'の下ろした垂線の足をD、
C,Dから直線AB'に下ろした垂線の足をそれぞれF,Eとする。
このとき、
AB=cos(a),AD=cos²(a),AE=cos³(a),AF=cos(3a)となる。
また、△ABB'は二等辺三角形のため、
AB'=AB=cos(a)である。
ここで、直線DE,BC'の交点をGとすると、
∠DC'G=90°-∠BAC'=90°-a
∠C'DG=∠ADE=90°-a
より、△C'GDは二等辺三角形であり、∠C'DB=90°より、Gは3点BDCの外接円の中心であり、BG=CGとなる。
さらに、BC=BC'より、CG:C'G=3:1であり、C'F,GE,C'B'は全て互いに平行のため、
FE:EB'=CG:C'G=3:1となる。
よって、
AE
=cos³(a)
=(AF+3AB')/4
=(cos(3a)+3cos(a))/4
より、式4は示された。
感想
ただの三角関数の公式にも、それぞれコアになっている幾何的な意味があると思うと、面白いですね。