海外鉄道の録音撮影旅―7度目の渡韓編― その2
~2024年11月6日(水)から12日(火)にかけ、韓国の鉄道旅行をしてきました。
電車の録音や撮影を趣味とする人間の、一風変わった旅行記をお読みいただけたらと思います。~
前回の記事はこちら↓
予定より少し寝すぎてしまったので、急ぎ足で朝食のフロアへ向かった。
東横インは宿泊費に朝食代金も含まれていてありがたい。
白飯にソーセージと韓国海苔をトッピングし、野菜とデザートのバナナを皿に載せて席についた。
さて、今回韓国に来た目的は、引退する通勤電車の記録である。
その電車というのが、341000系の3次車というもので、こちらもトングリというタイプの車である。
前日に乗ったトングリは、京仁線や京釜線を含めた수도권 전철 1호선(首都圏電鉄1号線)を走っている車であるが、こちらは同4号線を走る車両で、少し仕様が異なる。
在籍は5編成のみとかなりの少数派な上、運用によっては朝のラッシュだけ走ってそのまま車庫に留置される場合もあるので、撮影や録音は完全に運頼みである。
朝食をとりながら当日の列車運用をアプリで調べてみると、3編成が運用に入っていることが分かった。
食器を片付けながら、従業員に맛있었어요(マシッソッソヨ 日本語で「美味しかったです」や「ご馳走様でした」の意)と声を掛けると、忙しなく動きながらも飛び切りの笑顔を見せてくれた。
ある程度時間に余裕があったので、京仁線内で撮影をしてから4号線へ向かうことにした。
韓国では、通勤電車の駅のほぼ全てホームドアが設置されているのだが、それが故に撮影を行うとなると画角に大きく制約が生じる。
そして、比較的近年まで鉄道の撮影が禁止されていたこともあり、日本ほど鉄道趣味が浸透しておらず、撮影地の情報も少ない。
そのため、車窓から撮影できそうな駅を探すことにした。
すると、早速富平の隣の부개(富開 プゲ)という駅が撮影に向いてそうであることが分かった。
実際に訪れてみると、撮影はできるけれども、少々技術を要することが分かった。
編成後部が僅かにカーブしていて、編成後部が信号機にかからないように工夫が必要である。
また、線路脇のビルや架線柱の影も入りやすく、全体を映すには絶妙な立ち位置とタイミングが求められた。
何本か撮影してみた結果、比較的満足いく写真が撮れたので、4号線の方へ足を運ぶこととした。
京仁線と4号線は直接接していないので、必ず他路線を経由する必要がある。
今回は撮影地の都合、소사(素砂 ソサ)という駅で서해선(西海線 ソヘ線)に乗り換えることにした。
西海線は、ソウル郊外を南北に貫く路線で、2018年に開業した比較的新しい路線である。
現在も延伸が繰り返されており、2025年には総延長100キロメートルを超える長大路線となる見込みだ。
そんな西海線には初乗車である。
ホームは地下深く、何本もエスカレータを下ってやっとのことでホームに着いた。
暫く待ってやって来たのは、391000系の2次車という다원시스(多元シス タウォンシス)製の車両であった。
4両編成の列車は地下を走り抜け、30分ほどで4号線との乗換駅、초지(草芝 チョジ)に到着した。
さて、草芝に着いた時点でアプリを見ると、目当ての4号線トングリがあと10分ほどで接近することが分かった。
富開で時間を使い過ぎたのと、西海線の本数が少なく、待ち時間が長かったのが災いした。
草芝のホームは4号線が高架、西海線が地下深くにあり、乗換駅とはいえ上下移動が長い。
日本の大都市近郊と比べると遥かに起伏の多いソウルの乗換駅では、このような長い上下移動が珍しくない。
少し急ぎ足で4号線の高架ホームに上がると、ちょうどトングリの1本前の電車が入線してきた。
草芝では撮影が困難なので、慌ててその電車に乗り込み、撮影地として有名な중앙(中央 チュンアン)駅へ移動した。
中央駅で降りると、反対側のホーム端まで急いで移動し、カメラを構えた。
次がいきなり本番の電車なので、撮影の練習が全くできず、心臓がバクバクした。
幸い、反対側の電車が目の前を横切ることも無く、トングリが見えてきた。
ファインダー越しに車両を捉え、夢中でシャッターを切った。
無事に画角に収まった車両を見て、大きくため息をついた後、人目も憚らずガッツポーズをした。
ひとまず狙いの車両は撮影できたので、場所を移動することにした。
本当は録音をしようと思っていたのだが、日差しが強く、気温が高くなっていたので、日中は断念することにした。
電車の空調は、暖房はヒーター、冷房はエアコンというのが基本である。
エアコンは音が大きいので、冷房が入ってしまうと録音ができない。
せっかく天気が良いので、違う場所でも撮影したい。
そんな訳で、京釜線沿いの「世界的有名撮影地」なる場所を目指した。
4号線の電車に乗り、금정(衿井 クムジョン)を目指した。
ここでは京釜線の電車に同一ホームで乗換えが可能な構造である。
ちょうど向かいのホームにやって来たのは、日本の103系にあたるソウル交通公社1000系1次車であった。
日本の103系はもう風前の灯火であるものの、韓国ではまだソウルに乗り入れており、鉄道趣味者の観点では非常に興味深い。
紆余曲折あって2029年頃までは在籍が確定しているようだが、こんな車を差し置いてトングリのような比較的新しい車両が先に廃車になるのは何だか腑に落ちない。
「世界的有名撮影地」なる場所は、가산디지털단지(加山デジタル団地 カサンデジタルダンジ)という駅から徒歩10分程度の所にある。
鉄道の撮影には比較的厳しい韓国にあって、こちらは鉄道の公式な撮影地として綺麗に整備された、かなり珍しい場所である。
衿井からはおよそ15分程度の乗車で、ソウル都心側からのアクセスも良い。
ところが、車内でKORAILの時刻表を見てみると、撮影しようと思っていた列車が既にソウルを出発したことが分かった。
京釜線は、長距離列車と通勤電車が方向別複々線の内外を並走する。
その内側の線路を、ディーゼル機関車牽引の새마을(セマウル)号が迫っていた。
セマウル号とは日本でいう特急列車のことで、大半の列車が電車化された中、장항선(長項線 チャンハン線)という路線に直通する列車のみ、ディーゼル機関車牽引の客車列車として運転されている。
1日に5本しか無いので、次の列車を逃すとかなり手痛い。
そこで、ダメ元で途中の금천구청(衿川区庁 クムチョングチョン)で下車してみることにした。
すると、ホーム端から直線でまあまあ良い角度で撮影できることが分かった。
こちらもぶっつけ本番でありながら、白煙を吐きながら迫りくるディーゼル機関車牽引の客車特急をしっかり画角に収めることに成功した。
調子に乗って、後続のKTXも撮影しようとしたら、手前に架線柱の影が重なって微妙な仕上がりになってしまったので、早々に切り上げて加山デジタル団地に移動した。
撮影地に向かう道は非常に分かりづらく、高速道路のインターチェンジの入口脇から歩道が伸びていることに気付くまで5分以上かかった。
その間に、何本か列車が通過していくのが音で分かった。
やっとのことで撮影地に着くと、ちょうど下りのKTXが通過していくところだった。
直線で迫ってきたところを、編成の前部だけ外側にカーブして逸れていく構図で撮影できるのだが、曲線部だけに架線柱が多く、影が入りやすくて撮影は案外難しい。
最適な倍率と角度を探し、5本程度撮影してようやく構図が決まった。
結局2時間ほど滞在し、1本後のディーゼルセマウルと、同じく客車普通列車の무궁화(ムグンファ)号を撮影してこの地を後にした。
日も傾き始め、撮影も困難になってきたので、残りの時間は録音に費やすことにした。
私が韓国に来ると必ずと言って良いほど乗る車両がある。
4号線を走る4000系という車両で、その中でもGECアルストム製のGTO-VVVF搭載車が私の大のお気に入りである。
日本では採用されていないメーカーで、VVVFの特徴である変調回数が多いのに加え、とにかく爆音で音も美しい。
4000系自体がここ数年以内に後継車両へ置き換えられるということで、好きなだけ音を浴びられるうちにしつこいぐらい乗り回すことにしている。
加山デジタル団地から7号線に乗り、4号線との乗換駅へ向かった。
この駅は7号線は이수(梨水 イス)駅を名乗るが、4号線の方は총신대입구(総神大入口 チョンシンデイック)と名前が異なっており、乗換案内の際には両方の駅が放送される。
目当ての4000系車両はちょうど近くを走っており、隣の사당(舎堂 サダン)という駅で折り返すのですぐに録音が開始できる。
早速舎堂まで乗車し、反対側のホームに整列した。
間も無く、目当ての車両がゆっくりと入線してきた。
4号線は常にダイヤが乱れていることから、始発電車であろうと発車までに余裕が無く、ドアが開いてから10秒ほどでドアを閉められることも珍しくない。
そのため、列に並んでいるうちから機材の再生ボタンをオンにしておき、ドアが開いた瞬間に車内に駆け込み、機材を大慌てでセットした。
今回も例に漏れず、ドアはあっという間に閉められた。
数秒の静寂の後、美しいVVVF音が車内に響き渡った。
この瞬間が、私にとって至福である。
舎堂を発車したのは16時前で、地上区間もまだ明るかった。
1時間ほど走り、終点の高架駅、당거개(タンゴゲ)に到着した。
実は最近駅名改称があり、駅の登録は既に新駅名の불암산(仏岩山 プラムサン)となっていたらしいが、駅や車内では全てタンゴゲと放送されていた。
駅のホームドアにあるLED表示器は仏岩山の表記に変わっていたのに、駅名標はタンゴゲのままで、こんなに曖昧に駅名変更が行われることに衝撃を受けた。
さて、タンゴゲ改め仏岩山からは少し迷走した。
ソウルの通勤電車は、5時間以内であれば改札を出ない限りどんなルートで乗っても良いというルールがある。
5時間を超えると、初乗り運賃が加算される。
本当は仏岩山で折り返したいのだが、駅の構造上必ず改札を出ないと反対側のホームに出られない。
少しお金をケチろうとした結果、タンゴゲから先に直通する電車に乗り換え、次の電車で1駅折り返すことにした。
ところが、ダイヤが乱れて電車の運用が混乱していたためか、目当ての電車が中々来ず、最終的には4号線の終点である진접(榛接 チンジョプ)まで乗車し、目当ての4000系を捕まえて舎堂に到着すると20時を回っていた。
高々百数十円をケチっただけで、1往復分ほどの時間を失ってしまった。
時間が遅くなったのでこれ以上の録音は避け、ホテルへ戻ることにした。
加山デジタル団地で改札に入ってから5時間以上経過してしまったため、富平で降りる際には結局余分に運賃が差し引かれた。
~その3へ続く~
★2024年11月7日の行程★