進行小細胞肺癌に対するTarlatamab DeLLphi-301試験
小細胞肺癌の新しい薬について勉強しました。
<Background>
タルラタマブ(tarlatamab)は、デルタ様リガンド3とCD3を標的とする二重特異性T細胞誘導抗体による免疫療法薬である。既治療の小細胞肺癌患者を対象とした第1相試験では有効な抗腫瘍活性を示した。
<Methods>
第2相試験で、既治療の小細胞肺癌患者にタルラタマブ10mgまたは100mgを2週毎に投与し、有効性と安全性を評価した。主要エンドポイントは客観的奏効率ORR。
<Result>
220人がタルラタマブの投与を受けた。前治療数の中央値は2であった。ORRは10mg群で40%(97.5%信頼区間 [CI] 29~52)、100mg群で32%(97.5% CI 21~44)であった。奏効した患者の59%(68人中40人)は奏効期間が6ヵ月以上であった。データカットオフ時点で客観的奏効が持続していたのは、10mg群の40人中22人(55%)と、100mg群の28人中16人(57%)であった。PFS中央値は10mg群で4.9ヵ月(95% CI 2.9~6.7)、100mg群で3.9ヵ月(95% CI 2.6~4.4)であった。頻度の高い有害事象は、サイトカイン放出症候群(10mg群で51%、100mg群で61%)、食欲不振(29%、44%)、発熱(35%、33%)であった。grade3 のサイトカイン放出症候群の頻度は、10mg群(1%)のほうが 100mg群(6%)よりも低かった。治療関連有害事象によりタルラタマブを中止した患者の割合は低かった(3%)。
<感想>
小細胞肺癌(SCLC)は足の速い肺癌であり、全肺癌症例の約15%を占め、世界中で年間20万人以上の発症となっています。SCLC患者の90%以上は、男性、高齢(70歳以上)、現在または過去に喫煙歴があり、心臓や肺、代謝の基礎疾患を持っています。SCLCは神経内分泌細胞に由来し、通常は胸部の中枢側に発生します。急速な増大と早期転移を特徴とし、最も致命的な腫瘍のひとつです。SCLC患者の大多数は、治療の選択肢が限られる進行病期のextensive disease:EDで発見されます。最初の診断の時点で、患者の約75〜80%はすでに脳、肝臓、副腎、骨、胸膜、リンパ節に転移しています。
一次治療は抗がん剤(CBDCA+ETP)に免疫チェックポイント阻害剤(Caspian試験;Durvalumab、IMpower133試験;Atezolizumab)を上乗せするregimenが普及しています。PFSは5~6カ月程度のため、3剤治療を4コース行い免疫チェックポイント阻害薬のみでmaintenanceし、しばらくすると再発するという印象です。その後の二次治療はAMR、CPT-11などが選択肢になります。
このDeLLphi-301試験の対象は日本人が4割含まれており、ほとんどが三次治療以降にtarlatamabを投与しているようです。対象は脳転移は2割、肝転移は3~4割で、ほとんどがDLL3発現を認めています。初回効果判定は10mgあるいは100mgどちらの群もPR以上と良好です。OSは10mg群で14.3カ月と驚異的な数値です。PFSが4~5カ月程度ですが、3割程度が9カ月の間効果を認めているようです。PDになってもongoing treatmentとなっており、beyond PDで治療継続しているのでしょうか(?)。
現在、セカンドラインの標準治療とtarlatamabを比較する第Ⅲ相試験DeLLphi-304試験が走っているようです。SCLCにおける二次治療の選択肢にtarlatamabが並ぶ日が近いかもしれません。クリニックでは悪性腫瘍に対する点滴の化学療法を行う機会はほとんどないかもしれませんが、呼吸器診療をする以上、肺癌の方を診察する機会はたくさんあります。また、興味本位としても日進月歩の癌領域には目が離せません。今後も余力があれば継続的に最新の肺癌情報をチェックしたいと思います。
愛知県春日井市
かすがい内科 咳と頭痛と生活習慣病
院長 山下 有己