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オランダアートひとり旅#05.アムステルダム国立美術館~気になっていた夜警の切り取られた部分~
アムステルダム国立美術館にやって来ました。
ライクスミュージアム(Rijksmuseum)とも呼ばれるオランダ最大規模の同美術館では、17世紀のオランダ黄金時代を彩るレンブラントやフランス・ハルス、フェルメール、ヤン・ステーンなどの名画を中心に、19世紀のアムステルダム印象派やハーグ派の作品にも出逢うことができます。
※フェルメールの作品は、6月4日まで「フェルメール大回顧展」にて展示されています。
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今回はオーディオガイドを借りず、アプリをダウンロードしガイドツアーに従って見学しました。館内では Free Wi-Fi を利用できるため、ネットの心配はいりません。日本語の解説も充実しています。
特に初めての方、どの作品を観れば良いか分からないという方におすすめなのが、ハイライトツアー(The best of the Rijksmuseum)です。時代を超えた至極のコレクション20点を鑑賞する解説ツアーで、美術館を効率よく回れます。道に迷っても位置情報から作品のある部屋まで案内してくれますし、検索機能を使って別の作品の解説を聞くことも可能です。
今回はハイライトツアーを中心に見学しつつ、途中気になる絵画を見つけたら別途解説を聞いて回りました。
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17世紀オランダの巨匠と名画
◆レンブラント・ファン・レイン(1606-1669)
17世紀のオランダ黄金時代を代表する画家といえば、レンブラント・ファン・レイン(1606-1669)でしょう。
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「光の画家(光と影の画家)」「光の魔術師(光と影の魔術師)」の異名を持つレンブラントは、その名の通り、強烈な明暗のコントラストを見事に操るバロック画家で、独特の筆使いから創造される作風は劇的な印象を与えます。また油絵のみならず、優れた銅版画家としても有名で、多数の傑作を残しています。
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カメラのなかった当時、組合本部の役員室には幹部の肖像画を飾るのが伝統でした。言い換えると、17世紀の集団肖像画=現代の集合写真。《織物商組合の幹部》はそのひとつです。レンブラントは、この絵が壁の高い位置に飾られることを知っていたため、男たちを下から見上げるように描いたそうです。
◆フランス・ハルス(1582-1666)
レンブラントと同時代に生き、同じく肖像画を得意としたのがフランス・ハルス(1582-1666)です。
日本ではレンブラントやフェルメールと比べると知名度の低い画家ですが、オランダではユーロになる前のギルダー紙幣に描かれるなど17世を代表する肖像画家として知られています。
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そのハルスが描いた《庭園の夫婦》。笑顔でこちらを向くふたりですが、17世紀の絵画で笑顔を描くことは珍しかったそうです。
豊かな表情とともに内面までをも描写する卓越した筆致が魅力のハルス。そんな彼の異名は「笑顔(笑い)の画家」だそうで、これ以外にも、瞬間の笑顔を生き生きと捉えた作品を多く生み出しています。
◆17世紀の傑作選
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アーフェルカンプほど冬の風景画を巧みに描く画家はおらず、当時からとても人気だったとか。
この作品には、なんと200近い人々の姿が描かれているそうです。スケートを楽しむ人、コケる人、ソリに乗る人とそのソリを曳く人――。詳しくは『中野京子と読み解くフェルメールとオランダ黄金時代』で解説されているので、興味のある方はぜひ。
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この作品には考えさせられるメッセージが込められていて、それは「親を見て子は育つ」だとか。
ふーむ。よく分かりませんが、タイトル通り、本当に陽気な家族だなあとは思います。
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白鳥が犬から巣(卵)を守ろうとしている場面で、非常に迫力がありました。
白鳥の下には「DE RAAD PENSIONARIS (Grand Pensionary)」、卵のひとつには「HOLLAND」、犬の頭上には「DE VIAND VAN DE STAAT (the enemy of the state)」と書かれていることから、この絵は長い間オランダ独立のシンボルとされていましたが、これらの記述はアセリン本人ではなく他の人物によって書き足されたことが分かっています。
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質感と反射の表現力よ。本物が目の前にあるみたい!
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オランダといえば、このような風景を思い浮かべますね。
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フェルメールに似てるなあと思ったら、違う画家の作品でした。
ここで気になったのは「どうやって作者を特定しているのか」ということ。同じ年代に、同じ材料の絵の具を用いて、同じような作風の絵を描き、サインを残さなければ、誰が描いたかなんて分からないんじゃないかなあ。そういう作品って多くないのかな・・・。
絵を見ながら、そんなことを考えていました。
◆◆◆
レンブラント《夜警》
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さてアムステルダム国立美術館といえば、レンブラントの《夜警》です。門外不出といわれるこの作品。1642年に制作された、レンブラントの最大にして最高傑作です。
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そのフロアに《夜警》の部屋が設けられています。
◆正式名称と解説
《夜警》の正式名称は「フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ライテンブルフ副隊長の市民隊」。
絵を保護するために塗られたニスが黒ずみ、夜の光景に見えたことから、19世紀初頭に《夜警》と呼ばれ始めました。ただ、黒ずむ前から、昼というには暗すぎたという話もあって、明暗のコントラストが激しいレンブラントらしい逸話だと感じます。
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<Rijksmuseum より>
《夜警》は火縄銃手組合による市民自警団の集団肖像画で、正式名にある通り、中央には市民隊を指揮するフランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ライテンブルフ副隊長が描かれています。この頃のオランダは市民隊が街を守り、公共の秩序を維持していました。
そして、左側にいる怪しげな老け顔の少女は、ある種のマスコットだそうです。彼女のベルトに吊り下げられた鶏の爪は、組合のシンボルでした。
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レンブラントは、当時の習慣に従って登場人物を一列に描くのではなく、無秩序な配列を用いて、市民隊がまさに前進しようとしている状況を示唆しました。つまり、この絵画がユニークなのは、集団で活動しているところを描いている点にあるのです。
◆切り取られた部分
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当初は火縄銃手組合集会所のホールに掲げられた《夜警》ですが、1715年にダム広場にあるアムステルダム市庁舎に移動されます。その際にサイズが合わず壁に収まらなかったことから、四方が切り取られました。切り取られた部分は、今でも見つかっていないそうです。
以前「失われた部分が AI によって復元され、数か月展示された」という記事を読んだことがあり、そのレプリカ、または復元された四方を観られるのではないかと期待していたのですが、ありませんでした。残念!
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その代わり、17世紀の画家ゲリット・ルンデンスが描いた《夜警》の模写を観ることができました。この絵を参考に、無くなった部分が復元されたそうです(ゲリット・ルンデンス、よくぞ模写してくれた。Good job!!!)。
サイズは 66.5×85.5 cm なので本物と比べるとかなり小ぶりですが、それでも切られた部分を見ることができて、非常に満足です。
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<wikipedia より>
当時、集団肖像画は皆でお金を出し合って依頼していたそうです。それを考えると、切り取られた左側の男性2人はどう思ったのでしょうね。まあ、その頃にはすでに亡くなっていたと思いますが、天国で嘆いてたりして。
一番左のA氏:「切るなら右の奴らでいいだろ」
左から二番目のB氏:「そうだ、そうだ」
現実:「いやいや、この構図だと左でしょ。右の3人を切ったら、不自然に手だけが残るじゃない」
A氏&B氏:「・・・(むっ)。じゃあ金返せ(オレたちの子孫に)」
◆◆◆
19世紀のアムステルダム印象派とハーグ派
最後は、19世紀後半に活躍したアムステルダム印象派とハーグ派の作品を抜粋してお送りします。
◆アムステルダム印象派(ポスト印象派含む)
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◆ハーグ派
ハーグ派は、1860年~1900年にオランダ・ハーグを拠点に活動した画家を指します。バルビゾン派の影響を大きく受けたハーグ派は、印象派と同じく自然や田園風景をテーマに作品を描きますが、その色彩はくすんだ灰色を基調としています。
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フランス・ロマン主義の影響を大きく受けた風景画を描いたニュイエンは、ハーグ派のさきがけの画家として知られています。
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アムステルダム国立美術館は、西洋画好きにはたまらない大満足の美術館でした。
本記事では17世紀と19世紀の油彩画を中心にお届けしましたが、そのほかにも、中世やルネッサンス時代の芸術にも出逢えますし、音楽、建築、スペインとの80年戦争、植民地時代など、興味のあるテーマを絞って見学するのも楽しいと思います。
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Ernest Chaplet (1835-1909), Choisy-le-Roi, c. 1891-1895
観覧者やスタッフ含め、おそらくこの美術館で一番かわいいぺっこり熊
「このような長い記事を最後まで読んで下さり、心より御礼申し上げます」と代わりに言ってくれてるよう。