#10.神様による修正が入ったなと思った瞬間
前回は留学するに至った過程をお話しました。
現実感のない日々を送っていたあの頃、海外に行くという昔の夢を思い出した瞬間に世界のすべてが輝き始めました。そして、すべては最初から決まっていたかのように、何もかもがスムーズに進んでいったのです。
しかし、その中でひとつだけ「ひょっとして神様に軌道修正された?」と感じたことがありました。自分の意思が介入したとは思えない、なぜそんなことになったのか理解できない、詰まるところ、こんなことをするのは神様の仕業に違いないーー、そんなことを思ったお話です。
志望校を選ぶ
留学プログラムでは米国と英国の大学が選べたのですが、私はヨーロッパに行きたい気持ちが強かったので、迷うことなく英国を選びました。
英国には提携校が3校ありました。ウェールズにあるA大学とB大学、そして、スコットランドにあるS大学です。
面接試験では志望校を伝えることになっていました。私は書店で購入した英国大学専門留学ジャーナルを見ながら、第1志望はA大学の国際政治学、第2志望には同じA大学の国際関係学を選択しました。当時の私は世界情勢と世界平和に興味がありました。A大学の国際政治学部は歴史も古く世界的にも有名だったことから第1志望に選んだのです。
それは面接の場で起きた
面接は2回行われました。最初はこのために来日していたS大学の学長と1対1の英語面接。それが終わると、留学プログラムのスタッフと日本語での面接を受けます。
準備をしてきたとはいえ、やはりネイティブとの会話はハードルが高く、英語面接は終始あわあわしただけで終わりました。
それから10分ほどして、日本語での面接が始まります。
私はドアをノックして、部屋に入りました。目の前の白い長テーブルには面接官が3人いて、その前に置かれているパイプ椅子に座ります。
面接では特に変わった質問はなく、留学しようと思ったきっかけ、将来の夢など基本的なことしか訊かれなかったように思います。面接官は3人とも気のいいおじさんといった雰囲気で、私も緊張することなく面接を楽しんでいました。
すると途中から、真ん中にいる面接官が手元にある紙をじっと見ながら、何やら考え事を始めます。見ているのは私の書類です。紙をめくっては考えめくっては考えを繰り返し、そして、口を開きました。
「第1志望も第2志望も A大学だよね」
「はい、そうです」
そこから面接官は「S大学の国際関係学部も世界的にすごく有名だよ」と話し始めたのです。そして、A大学よりもS大学の方が歴史が古く知名度も高くて有名だというのです。
私:「(だからどうした)」
そして、訊かれます。
「やっぱりA大学が第一志望なの?」
私は国際関係学にも興味はあるが、最も学びたい分野は国際政治であり、だからこそ国政政治学部があるA大学を選んだと説明しました。そもそも、S大学には国際政治学部はありません。国際政治を学びたくて国際政治学部に行こうとしているわけで、そこをS大学にする理由がありません。
すると「S大学の国際関係学も有名だよ。多分S大学でも国際政治の授業があると思うんだよね。3、4年になると選択科目も増えるからそのときに国際政治を学べるよ」と、面接官は説明します。
しかし、私は「多分」とか「思う」とか、随分と不確かなことを言うなと思いました。なぜそこまでS大学を推すのだろうか。しかも、隣にいる面接官ふたりも「S大学の方が良い」といった感じでうなずいています。
この面接官は、全員グルなのか?
顔は笑顔で聞いていましたが、心の中では「このおっちゃんらは一体全体何が言いたいんだ? S大学よりもさ、A大学の話をしようよ」と、少しだけうんざりしていました。
そして、訊かれます。
「第1志望も第2志望もA大学にするのはあれだから、S大学にしない?」
私はここが会話の落とし所だと感じました。そして、第2志望をS大学にするくらいなら別に良いだろうと思い、「はい、そうします」と答えたのです。
しかし、私は間違っていました。
帰りの新幹線。
通り過ぎていく景色を見ながら、面接で話した内容を思い返していました。そして、ふと思います。
あれ・・・なんか、おかしい。
面接では、S大学ばかりを推していた面接官のおじちゃんたち。第2志望をS大学に変えた途端、大仕事を終えたかのようにすっきりとした表情で、他の会話に移ったのです。
はっ! S大学にしないかと言ったのは、第2志望じゃなくて、第1志望のことかだったのもしれない!!!
そうなのです。面接官の誰も第2志望をS大学に変えようなんて言っていません。完全に、私の勘違い。
ーー年が明け、雪が降り積もる日の夕方、ポストに入っていた大学案内はA大学ではなく、S大学でした。
なんとなく分かってはいたけれど、やっぱりそうだったのかと私は小さなショックを受けました。
嬉しいけど悶々とする
大好きなビートルズを生み出した国。
あの美しいジャガーEタイプを生み出した国。
イングランドではなくスコットランドではありますが、留学が決まって、とても嬉しかったです。
しかし、やはり悶々とします。
なぜ、S大学になったのか。
考えて、考えて、私の結論は・・・
絶対に、神様の仕業
根拠とかは一切ないです。そんなもの、どうだっていい。
おそらくこの人生で留学すること決まった時点で、その留学先がスコットランドであるということも一緒に決まっていたのです。しかし、私はそれに気づかずウェールズの大学を志望していました。
「こりゃいかん」
そう思った神様は、私の選ぶ道を少しだけ軌道修正するために、面接官のおじちゃんを動かしたのです。そう、数か月前に、おじさん天使を私のもとに送ったようにーー。
しかも私のことをよく知る神様は、私には何が起きているのか分からないように、巧妙にやりやがったのです。
くっそー。やられた。
あとで分かったこと
渡英前の3か月間、東京で事前研修がありました。
そして驚くことに、私と全く同じ境遇に遭った人物がもうひとりいたのです。彼女も第1志望でA大学の国際政治学、第2志望でもA大学の国際関係学を志望していたのですが、面接のときに色々話をしているなかで、気付いたら志望校がS大学に変わっていたそうです。
実は、後で分かったことなのですが、3校の中ではS大学が一番の名門だったため、S大学に進学する学生数を増やしたい(定員枠をできる限り埋めたい)と運営側は思っていたそうです。しかし、米国の大学とは違い、英国の大学は高校時代の成績を重視するため、希望すれば行けるというわけではありません。そこでS大学に行けるくらいの成績はあるもののA大学やB大学を志望している学生がいたら、S大学に行くようにと面接で促しているとのことでした。
あくまでも、噂程度の話ではありますが、なんだか納得がいきました。
◆◆◆
それでも、改めて考えても留学先がS大学で本当に良かったと思います。
最終的には、社会人類学という私にとっては国際政治学よりもおもしろい学問を専攻することができまし、スコットランドの大自然には癒され、そして何よりも、一生涯の友人ができました。
やはり、神様の采配は完璧です。
ちなみに、この記事でいう合格は大学付属の Foundation Course(教養課程)への入学を意味します。
日本とは異なり、英国の大学は1年目から専門課程が始まるため、高卒の資格では入れません。日本人が英国の大学に入学する場合は、大学2年生を修了しているか、高卒の場合は各大学が設置している Foundation Course を修了する必要があります。
ではでは😊