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ぼくがやりたかったのはDevRelでも技術広報でもDeveloper Successでもなくエンジニアイネーブリングだったかもしれねえ

お気持ち表明

先日「DevRel」という職種に対して話題が起こりました。
その議論自体はあまり興味がないんですが、ふとこういうことなのかもしれないと思ったので忘れないうちに覚書として残して置こうと思います。
単にお気持ちを書いているだけなので、正しい正しくないの議論はしたくないです。

DevRel呼称問題は今後どうすればよいのか
エンジニアのためになることをしていきたい、というのがわたしの目指している道なので「エンジニアに違和感を感じさせてしまうなら名称を整理したらよいのでは」というのが個人的な意見です。

日本におけるDevRelとは何なのか、現状と課題と今後

その前に「日本におけるDevRel」に対するぼくのスタンスは941さんがいうところの「名称変えたらええんちゃう」に完全同意しています。
名前をつけるのは大事だけど、まあSREだってGoogleが言い出してから広まった職種名だし、ハレーションが起こるくらい広まってきたならそれは責務を分割する時が来ただけのことかなと思ってます。
モノリスからモジュールやマイクロサービスを切り出すように、DevRelから新しい概念が生まれるべき時が来ただけかなと。

やりたいことは「Tech Branding + Developer Success」

閑話休題。
名称の定義云々はさておき941さんのブログ内で定義された「やりたいこと」の中で「Tech Branding」と「Developer Success」が自分の想いに一番近いなと思ってます。

③Tech Branding
エンジニアを対象としたイベント・メディア、自社の媒体やSNSを通じて技術情報を発信したり、会社やプロダクトの認知を獲得しファンを増やす活動をおこなっています。採用広報や技術広報などとも呼ばれ、エンジニア採用に直接的・間接的に関わることもあります。

勉強会やカンファレンスなどのイベント運営をしたり、技術イベントのスポンサー窓口をしたり、イベントでブースを出展することもあります。

④Developer Success
自社のエンジニアに向けて開発者体験を向上させる活動をおこないます。社内の制度を整理・構築したり、社内向けの勉強会やイベントを企画したり、自社のエンジニアが外部に露出する際にサポートをしたりする。③Tech Branding に繋がるよう、社内で企画をたてたり運営したりすることもあります。

(前職の時のチーム名、LINEによる造語であると認識しています)

日本におけるDevRelとは何なのか、現状と課題と今後

ぼくの場合は技術広報(Tech PR)を名乗ってるんですが、業務としてやっていることは「Tech Branding + Developer Success」になります。
じゃあ、技術広報のままでいいじゃん?となるかというとこれもまた難しいかなと思ってます。
理由としては組織のフェイズごとにTech Brandingを優先するか、Developer Successを優先するかが変わったり、年間を通して「この半期はTech Branding、次の半期はDeveloper Success」みたいに年間でも軽重が変わるからです。
正直、いまは技術広報を名乗ってるが次の半年どちらの業務に傾向しているかは判断がつかない、それくらい業務が幅広く、業務実態がどちらとも言い難い状態が生まれるのでスパッと明言しにくい状態があります。

「どちらのほうが自分は得意領域である」とはいえるのでエンジニアでいうと「ソフトウェアエンジニア」の肩書でバックエンドもフロントエンドもインフラもやるけど、主な主戦場はバックエンド……みたいな状態が近いかも。
バックエンドエンジニアだけど別にフロントエンドやインフラ、その他のエンジニアリング領域を触ることがあるのは自然かなと思いますし、その持つべき領域は各社、各組織に依存してると思いますがそれによって求人票に難癖をつけるかたは少ないと思います。この会社ではこういう振る舞いが求められるんだなで終わることかなと。

ぼくは職種名に特段すごく強い思いがあるわけではないのでこの議論が起こったときも「技術広報です」と名乗ればいいかと思っていたんですが、過去に何度かイベントでご一緒させてもらったナレッジワークさんのメンバー一覧をみていたときにふと「この名称が自分の中でピッタリ当てはまるかも」と思う事態が発生しました。

求めていたものは「エンジニアイネーブラー」?

たまたま、ナレッジワークさん急成長してるなーと思いながらメンバー一覧を眺めていたのですが、元LINEヤフーの三木さんを発見します。先程の941さんの元同僚の方ですね。
そして、その役職が「エンジニアイネーブラー」という聞き慣れない職種であることに気づきました。
エンジニアイネーブラーとは一体なんだろう?と興味を持ちました。

昨今はさまざまなところで「イネーブリング」というワードを聞くので、なんとなくイメージできるものはありつつも一般的、社会的に認知される職種なんだろうか?と思い軽く調べたところ、インフキュリオンさんの記事と野村総研さんの資料がヒットしました。

イネーブラー(Enabler)とは、辞書を調べると「ある事象の成功・目的達成を可能にする人・組織・手段」と書かれている。 ビジネスの側面では、「あるコア技術やデバイスを持っており、新たな社会システムを構築する上で不可欠な企業」と言 い直すことができる。

製造業におけるイネーブラーの台頭

これらの説明をみるとDeveloper Successよりも自分の中でイネーブラーという枠組みがしっくり来ました。
概念としてはDeveloper Successもイネーブラーも差異はないと思います。

反面、自分がひっかかっていたこととしては「Developer個々人が考えるSuccessの形は異なる。だがしかし、自分が提供しているのは所属する組織の中でのSuccessであって、エンジニア個々人の成功に必ずしも結びつけられているわけではないのではないか?」という疑問がありました。

またSuccessのような華々しい成果へのサポートをぼくができているのか?という点で自信が持てなかった点もあります。
これまでに泥臭いことはやってきた自負はありますが、Successのような誰かの幸せにつながる活動ができているかについて自信が持てませんでした。
(組織や個人に対していい影響を出してる面もあるとは思っています)
名前と実態に差異があるように感じて、自分が名乗ると仮定するとやや座りが悪い気持ちになりました。

過去を少しふりかえってみる

2021年6月に当時所属していたTechnical Enhancement Group(通称TEG)で「議論していた方向性と弊社マネーフォワードにおける技術広報ポジションに近いものがDeveloper Successにはある」と考えていました。
ところが、上記の疑問や気持ち悪さを解消できなかったこと、個人的に職種の名称や部署の名称に強い思い入れがないことから「明らかに実態と名前が異なる名称でなければよい」と考えて、技術広報を名乗る方向を維持しました。
この件は後の上司となるVPoE高井と軽く話しましたが「必要になってから考えればいいんじゃない?職種名を変えるのなんてすぐだよ!」という話をして現状維持(技術広報のまま)でいく方針を取りました。

当時も職種名は悩んでいたがラベルの中身よりも外側を議論することにあまり価値を感じなかったのでこの場では「良さそうな職種名だね」という感想で終わっています。

こちらが当時みていたYouTubeの動画。941さんもしょーこさんも三木さんもいる。いまみても凄くパワフルなチームですね。

チームトポロジーにみるイネーブリングと情報発信の関係性

Developer Successほどキラキラとしておらず、かつ自分の実態に即してそうな職種のラベルとして「エンジニアイネーブラー」はとてもしっくりきました。
これはチームトポロジーを読んだこと、弊社にSREやQAのイネーブリングチームがあることが影響しているかもしれません。

ぼくの中では「イネーブリングは泥臭く、大変だがそれをやり切る価値がある仕事」という印象を持っています。
そういった意味でDeveloper Successよりは自分の思いや実態に近いニュアンスを感じました。

チームトポロジーの中でもイネーブリングチームの最終的目標は「ストリームアラインドチームの自立性を高めること」でした。
(うろ覚えなので間違ってたらすまん)

ぼくはマネーフォワードという組織の情報発信の能力を高め、誰かに依存することなく発信できる、相談できる組織にしたいと思い、技術広報になりました。
そういった意味でこの「エンジニアイネーブラー」という職種名は自分の中でピッタリな表現だなと感じています。

いまはまだマネーフォワードは「(情報発信における)イネーブリングチームがある」状態です。
理想的には各本部、各チーム内に技術広報的な職責を持ってくれるメンバーが生まれてほしいと考えています。

技術広報ってラベルがついたからわかりにくいと思うけど働く人全員に求められるのが技術広報的な役割だとぼくは考えている。

なので職種ではなく、職責(業務として取り組む責任)だと考えたほうがすっきりすると思う。程度の差はあれ品質やセキュリティ、サービスの持続可能性や信頼性を気にしないエンジニアやデザイナーがいたら多分未熟だなと感じると思う。ぼくは情報発信も同じだと考えているので良いものを作ったら「これはいいものです」と伝える説明責任がエンジニアやデザイナーにはあると思う。

技術広報に向いてる向いてないの議論に興味がないという雑記。

過去に自分が書いたものだけど書き殴りだから強い語調になってしまっている。
それはさておき、技術広報のようなロールは個人的に不要だと思ってます。
本来はエンジニアやデザイナーが持っているべき職責の1つでしかないものだと考えています。
例えば、クラスメソッドさんやはてなさんのような組織ではアウトプットやテキスト文化が当たり前なのでおそらくそういった職種はあると助かるかもしれませんが、必要とはされないと思います。

現在それが多くの組織で必要になっているのは、必要悪のようなものではないかと考えています。
本来はエンジニアが取り組むべき仕事の1つだがエンジニアが取り組むが多くなりすぎているから切り出さざるを得なくなったのだと考えています。
そのため、エンジニアの職責からパージせざるを得なくなって専任職やチームとして担保できる形として生まれたのではないかと考えています。

(個人的にはこのパージされる責務はあまり好みではないです、必要だったものをパージした結果、その責任を追うべき人やチームからオーナーシップを持ちにくい環境にしてしまうと考えているからです)

マネーフォワードは理想的な組織の状態にはまだまだなっていないし、ぼくは今回の件で職種名を「エンジニアイネーブラー」に変えたいと思ってるわけではないんだけど、自分の中の腹落ちとして「イネーブラーである」が1つの解答だなと納得したのでその経緯や過程を残しておこうと思い、この記事を書きました。

文化の盗用とDevRel名称問題に関しての所感

mizchiさんが主張していることや敬意を払ってる姿勢そのものは素晴らしいなと思うし、おそらくこの怒りは「文化の盗用」に近いのではないかと推測しました。
最近?だとキム・カーダシアンの「KIMONO」における文化の盗用が記憶に新しいと思う。

今回の「DevRel名称問題」は文化の盗用に比較的近いのではないかと思う。
mizchiさんは「悪意がある」と表現したが、おそらくそこに悪意はなくただ無自覚であっただけではないかなと。
(それはより悪いという意見もあると思うが、一旦ここでは無視するものとする)

なので怒りを持つことを否定はできないのだが、とある文化をハックすることは新しい価値を生むこともある点にも目を向けていいのではないかと思う。
例えば、Wikipediaによると日本の寿司の源流は東南アジアにあるらしい。天ぷらも源流はポルトガルにある。
ハックすることそのものが悪いとも言い切れないのではないかとぼくは思うし、そう考えると我々は多くの原理をハックしている中で生活をしている。
それら全てに怒りを向けるのは疲れるし、なによりも不毛であるように思う。

議論はしてもいいと思うが正直mizchiさんの怒りを発信するやり方は自分には正義の押しつけにみえてあまり心地よくない。
もう少し建設的な方向で、自分が一方的に言いたいことを言い合うのではなく、議論できる関係性を構築できるとよいのではないかと思う。
議論すらしたくないというなら仕方がないが、それはもう敬意を持ってるとは言い難いと思うし、そうはなってほしくないなという気持ちでいる。

mizchiさんたちが悪いわけではないんだけど、この手の論争は見ていてあまり気持ちがよい思いはしてない。さっさとこの名称問題は解決すればいいなと思ってます。
そういう意味で「エンジニアイネーブラー」という新しい概念が広まるといいのかもしれない。
2021年にはUSのほうでそういった職種が増えているよという報告があったので今後いまDevRelを名乗る人たちや組織でも変化があるかもしれない。