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司法試験受験生は行政書士試験を受けるべきか?
何か法律系の資格を取得したいという場合、最初の目標として勧められることが多い行政書士試験。司法試験や予備試験合格を目指して学習中に、行政書士試験の受験を検討する人も多いと思います。ロースクールの2年生の筆者も、令和5年度の行政書士試験を受験して無事合格することができました。出願のきっかけは周りの学生が受けている(いた)から、と軽いものでしたが、学習の中で得られたものは想像以上にたくさんありました。
本記事では、行政書士試験の概要と、司法試験受験生が行政書士試験を受けるべきかについて私の考えをお伝えします。行政書士試験合格を目指している方はもちろん、行政書士試験に合格したが予備試験・司法試験に挑戦するか迷っている方にもお役に立てば幸いです。(ライター:向田/The Law School Timesライター)
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行政書士試験とは
試験日時・試験内容
行政書士試験は、毎年1回、11月の第2日曜日に行われます。試験時間は3時間です。出題内容は「行政書士の業務に関し必要な法令等」(法令等)と「行政書士の業務に関連する一般知識等」(一般知識等)の二つに分かれており、前者は択一式と記述式の両方、後者は択一式で出題されます。記述式の問題は、例年40字前後と文字数の指定があります。
来年度以降の各試験の内容は次の通りです。なお、次回の令和6年度試験の基礎知識科目は、令和5年度までの一般知識等科目の出題内容と異なる可能性があるため、過去問演習等の際は注意が必要です。
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「行政書士の業務に関し必要な法令等」……法令等科目
憲法、行政法(行政法の一般的な法理論、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法及び地方自治法を中心とする。)、民法、商法及び基礎法学
「行政書士の業務に関連する基礎知識」……基礎知識科目(旧:一般知識等科目)
一般知識、行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令、情報通信・個人情報保護及び文章理解
司法試験や司法書士試験に比べて試験科目が少なく出題範囲も狭いこと、記述式試験の解答字数は例年40字前後で、長い答案を書く論述試験・口述試験が科されないことから、法律関係の資格に挑戦したいが不安な方が最初に受ける試験としてお勧めできそうです。
合格基準・合格者平均点
下記の3つの条件をすべて満たすと合格となります。なお、試験の難易度が例年と比べて大きく変化した場合、合格点引き下げなどの調整が行われる場合もあります。
① 法令等科目の得点が、満点の50パーセント以上
② 一般知識等科目の得点が、満点の40パーセント以上
③ 試験全体の得点が、満点の60パーセント以上
令和5年度合格者のデータ
行政書士試験研究センターによれば、令和5年度については、出願者は59,460人、受験者数は46,991人(受験率79.03%)でした。このうち、合格者は6,571人(最終合格率13.98%)です。令和5年度合格者の平均得点(総得点)は197点でした。 なお、最年長合格者は81歳、最年少合格者は13歳でした。
試験合格後すぐに行政書士になることができるか?
行政書士試験に合格するだけでは、行政書士としての活動をすることはできず、日本行政書士連合会が備える、行政書士名簿への登録を受けなくてはなりません(行政書士法6条1項)。なお、司法書士や弁護士のように、登録前に研修や修習を受ける必要はありません。また、未成年者の場合は行政書士試験に合格しても行政書士登録はできないため注意が必要です(行政書士法2条の2第1号)。
司法試験受験生は行政書士試験を受けるべきか?
行政書士試験、司法試験のいずれについても、どちらかの試験を受けたからといって科目免除などの優遇措置がとられることはありません。弁護士になれば、直ちに行政書士となる資格を得られる(行政書士法2条2号)ので、司法試験合格後に行政書士試験を受ける必要はないといえるでしょう。
もっとも、行政書士として申請書作成等の実務経験を積んだ人が、ステップアップとして司法試験に挑戦する場合、合格後にこれまでの経験を生かすことができるでしょう。
司法試験と行政書士試験、出題範囲はかぶってる?
行政書士試験と司法試験で共通の出題範囲は行政法、民法、憲法、商法です。
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行政書士試験の基礎法学では、行政書士試験では出題範囲となっていない刑法や刑事訴訟法、民事訴訟法の知識を使って解くことのできる問題も多く出題されます。一般知識等科目のうち、情報通信・個人情報保護の分野で出題される個人情報保護法については、予備試験短答の行政法で出題されることもあります。
司法試験受験者が行政書士試験を受験するお勧め度は……
★★★★☆
司法試験と行政書士試験では、主要な出題科目がほぼ重複しているので、司法試験・予備試験受験生が、翌年の短答式試験合格を目指す上で経過確認として受験することもできるでしょう。特に、憲法、民法の5肢択一の出題形式は司法試験の短答と酷似しています。
私自身も、行政書士の行政法の学習をする中で何度も行政手続法、行政事件訴訟法、行政不服審査法、行政代執行法などの条文を素読しましたが、単に行政法の短答ができるようになっただけでなく、行政法の判例や事案を理解するスピードが向上するなど、論文試験対策においても大きな効果があったと実感しています。予備試験を経由せず司法試験のみを受験する方は行政法の短答式試験を課されませんが、その場合でも行政書士試験の学習は意味のあるものだといえるでしょう。
万が一司法試験合格を諦めることになった時も、行政書士試験合格の実績は、撤退後の進路選択の上で有利に働くかもしれません。
おわりに
法律上の規定のみにとらわれず、弁護士や行政書士、司法書士、社会保険労務士などの法律家たちはすみわけと助け合いを行っています。
具体的な業務内容の違い、試験の受験資格の有無や出題形式の特徴などを踏まえ、読者のみなさまそれぞれにとって最適な選択ができれば、幸いです。
The Law School Timesは司法試験受験生・合格者が運営するメディアです。「法律家を目指す、すべての人のためのメディア」を目指して、2023年10月にβ版サイトを公開しました。サイトでは、司法試験・予備試験やロースクール、法律家のキャリアに関する記事を掲載しています!noteでは、編集部員が思ったこと、経験したことを発信していく予定です。